チャドウィック・ボーズマン遺作 『マ・レイニーのブラックボトム』が痛烈に描く社会問題

チャドウィック・ボーズマン遺作 『マ・レイニーのブラックボトム』が痛烈に描く社会問題

 2020年8月、病によって43歳の若さでこの世を去った俳優チャドウィック・ボーズマン。アフリカ系初のメジャーリーガーだったジャッキー・ロビンソンや、ファンクの帝王ジェームス・ブラウンなど、歴史に残る著名な人物を映画で演じ、アフリカ系キャストが主要な役柄を占める映画として最大のヒット作となったヒーロー作品『ブラックパンサー』(2018年)で大ブレイクを果たしたことで、自身も伝説的な存在となった。『マ・レイニーのブラックボトム』は、そんな彼の遺作となった映画だ。

 人格者のイメージをまとっていたボーズマンだが、本作の役柄は、才能はあるが喧嘩っ早く思慮の足りないミュージシャンだ。にもかかわらず、本作はボーズマンの俳優としての功績や、彼の人間性を感じられる、代表作と言ってもいい映画となっている。ここでは、本作『マ・レイニーのブラックボトム』の内容を追いながら、その理由を解説していきたい。

 本作のタイトルともなっているマ・レイニーとは実在の人物で、音楽を録音できるようになった時代に活躍した、初期のブルース・シンガーだ。彼女のトレードマークは、キラキラした衣装と金歯。「ブルースの母(マザー・オブ・ザ・ブルース)」と呼ばれ親しまれた彼女の歌は、当時の録音された音源によって、いまも気軽に聴くことができる。本作は、まさにその録音の現場が舞台となっている。

 彼女をもともと物語の題材にしたのは、劇作家のオーガスト・ウィルソンである。彼は自身がアフリカ系アメリカ人として生きた経験から、アフリカ系の人々を生き生きと表現し、アメリカの社会的な問題を描き出す数々の舞台作品を書いた。本作の『マ・レイニーのブラックボトム』は、そんな彼の同名舞台が原作となっているのだ。本作のプロデュースを務めているデンゼル・ワシントンは、ウィルソンの戯曲『フェンス』(2016年)を、自身が監督、主演で映画化している。

 映し出されるのは、1927年真夏のシカゴのレコーディングスタジオだ。そこでは、マ・レイニーお抱えのバックバンドが、レコーディングを控える彼女の到着を待ちながらリハーサルを行っていた。チャドウィック・ボーズマン演じる新進のトランペット奏者レヴィーは、そのバンドに新しく参加したものの、自分の才能を認めさせようと躍起になり、ベテランの奏者たちのひんしゅくを買ってしまう。そこで交わされる議論や、ついに現れレコーディングを行うマ・レイニーが、白人のスタジオのオーナーたちと交渉する場面などによって本作は構成されている。そして、物語は意外な展開へと転がっていく……。

 この物語からあぶり出されてくるのは、音楽業界における人種差別と搾取の構造だ。マ・レイニーもレヴィーもバックバンドのミュージシャンたちも、それぞれの立場や違った意見を持っているが、白人たちに搾取されているという点では、全く同じなのだ。黒人の曲やパフォーマンスがビジネスになることに気づいた白人たちが、人種差別による黒人の立場の弱さを利用し、安い賃金で曲を作らせたり演奏させたりして不当に利益を得ていたというのは、歴史的事実である。Amazonプライム・ビデオで配信されている『あの夜、マイアミで』(2020年)では、後年のソウルシンガー、サム・クックが、そのような搾取構造を打破して正当な利益を得ようと活動をしていたことが示される。

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる