池脇千鶴の変化していく姿が与える勇気と希望 『その女、ジルバ』は“再生の物語”に

『その女、ジルバ』は“再生の物語”に

 何より、新を演じる池脇の変貌ぶりには目を見張るものがある。池脇は新と同年代だが、普段は童顔でいくつになっても少女のような愛らしさを持つ女優だ。しかし、一転してドラマの新パートでは、メイクで顔はやつれ、背中も自信なさげに丸まり、表情は常にぶすっとしている。映画『ジョゼと虎と魚たち』で女優として確かな存在感を残してから約17年間、これだけ悲壮感に溢れる池脇は見たことがない。

 だが、それも最初だけ。第2話で女としての自信を取り戻すためにダンスの特訓を受け、運動への苦手意識を克服した新は“諦めるのを辞めた”。通勤にもチェックのワンピースを着用、いつもひっつめていた髪を下ろし、前園も思わず「かわいい……」と見惚れる仕上がりに。

 変化する前の新は、まるで呪いにかけられたお姫様のようだった。「“もう”40歳なんだから」「若くないんだから」という周囲から無意識にかけられた言葉の呪い。それをくじらママたちが、「女は40から」「捨てていいのは操と過去だけ」「これからの大切な人生を命ある限り、生きていきましょう」といった前向きできらめく魔法のような言葉で解いた。見る見るうちに美しくなっていく新の姿は、多くの視聴者に勇気と希望を与えるだろう。

 そして、池脇は本作で一人二役を務めている。バーのマスター・幸吉(品川徹)の思い出の中で立ち現れた初代ママ・ジルバを演じる池脇は、新ともアララとも違う、戦前戦後を乗り越えた、逞しくしなやかな淑女だった。“二者三様”の顔を使い分ける池脇の微妙な変化も堪能できる。

 最後に、新がバーで過ごした日々は2019年が舞台となっていることにも触れておきたい。2020年の現在パートでは新がマスクを着用していることからも、ドラマは原作にないコロナ禍の状況も描かれそうだ。「OLD JACK&ROSE」はコロナで大打撃を受けた飲食店、さらに働いているのはコロナにかかれば重症化しやすい年齢の女性たち。これまでにない厳しい状況をママたちはどう乗り越えていくのか。願わくば、明日を生きる糧になるラストを迎えてほしい。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
『その女、ジルバ』
フジテレビ系にて、毎週土曜23:40~24:35放送【全10回(予定)】
出演:池脇千鶴、江口のりこ、真飛聖、山崎樹範、中尾ミエ、久本雅美、草村礼子、中田喜子、品川徹、草笛光子
企画:市野直親(東海テレビ)
原作:『その女、 ジルバ』(有間しのぶ、 小学館『ビッグコミックス』刊)
脚本:吉田紀子
音楽:吉川慶、HAL
監督:村上牧人、根本和政、室井岳人
プロデューサー:遠山圭介(東海テレビ)、松本圭右 (東海テレビ)、雫石瑞穂(テレパック)、 黒沢淳(テレパック)
制作:東海テレビ、テレパック
(c)東海テレビ
公式サイト:https://www.tokai-tv.com/jitterbug/

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