『MIU404』の“誠実さ”、異例の朝ドラ『エール』 2020年を振り返るドラマ評論家座談会【前編】

2020年ドラマ座談会【前編】

 新型コロナウイルスの感染拡大により、未曾有の事態に陥った2020年。ドラマ界にもその影響は大きく、朝ドラ、大河ドラマ、4月クールドラマのほとんどは撮影が中断、放送が延期となった。それでもリモートドラマや新たな撮影方式など、作り手たちの工夫と熱意により、10月クールドラマは無事に最終回を迎えることができた。

 異例の1年を終えた日本のドラマ界を振り返るため、7月に行った座談会(『野ブタ』の先駆性、“ベスト再放送”の『アシガール』……コロナ禍を振り返るドラマ評論家座談会【前編】宮藤官九郎、坂元裕二、野木亜紀子は今後コロナ禍をどう描く? ドラマ評論家座談会【後編】)に続き、ドラマ評論家の成馬零一氏、ライターの木俣冬氏、田幸和歌子氏を迎えて、座談会を開催。前編では、それぞれのベストドラマ、SNSがドラマに与える功罪、そして朝ドラ『エール』について語り合ってもらった。

コロナ禍とどう向き合うか

『光秀のスマホ』(c)NHK

ーーまず、みなさんの2020年のドラマベストから教えてください。

成馬零一(以下、成馬):1位が『映像研には手を出すな!』(MBS/TBS)、2位が『今際の国のアリス』(Netflix)、3位がリモートドラマ『Living』(NHK総合)。4位が『MIU404』(TBS系)で、5位が『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京ほか)です。最初は『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)を5位に選んだのですが、再放送は対象外だったので「『MIU404』とセットで」という意味で『コタキ兄弟』を入れました。リモートドラマや、コロナ禍を題材にしたものを1位にしようかとも考えたのですが、正直に告白すると、どの作品もドラマとして、あまり上手くいっていたとは思えなくて。コロナ禍を記録したドキュメントとしては面白かったですし、作ったことの意義は理解できるのですが、純粋にドラマとして観たときに、映像や演出の面で評価できるものがなかった。何より、僕自身がコロナ禍の現実と距離をとりたくてSFやファンタジーにハマっていたので、その気持ちを優先し、CGを使った新しい表現を生み出した『映像研には手を出すな!』と『今際の国のアリス』を上位にしました。

田幸和歌子(以下、田幸):私も成馬さんと同じ意見で、志や今年記録しておく意義は評価しても、リモートドラマ、コロナ禍を描いたドラマにはどうしても入り込めないところがありました。今後、テーマとしても制作体制としても、コロナ禍と向き合いながらの作品作りになると思いますが、今はもう作れないであろう作品として、1位は『ホームルーム』(MBS/TBS)を選びました。とんでもなくくだらない内容なのに、カメラワークも音楽も、俳優たちのお芝居も、作り手たちの技術が存分に発揮されている一作です。ここまで振り切れた学園サイコ・ラブコメはコロナ禍以降はしばらく作れないのではないかと感じています。コロナ禍前にあった熱狂の象徴的作品ですね。2位は『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)。「舞台が現在なのにマスクもしてないで集まっているのはリアリティがない」という意見もあったようですが、コロナ禍が収束した少し先の世界を描いたある種のファンタジーですよね。でも、根底にあるものは“絶望”であり、主人公・桃子(有村架純)と恋人の真人(林遣都)には次々と不幸が訪れます。なんでドラマで絶望をわざわざ描くのかとも思うのですが、実はこれって、これからの社会のあり方のような気もしているんです。こんな悲惨な状況になっても、それでも悪いことをする人っているよね、暴力って絶対あるよねという、もっと先の未来を見せつけられてる残酷さも感じました。こんなすさんだ時代の中で、もっともっと悪いことが起こるけれども、じゃあどうしたらいいかって結局、自分と自分の大事な人、本当に小さなコミュニティで手を取りあって自分で守るしかないんだと。自助の恐ろしさ、その不安みたいなものと、その中で小さな希望を見出していく大切さを強烈に見せつけられた気がしています。温かい物語を描いてそうで、ものすごく残酷な未来を描いている作品として、『姉ちゃんの恋人』は突き刺さりました。ほかには、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京ほか)、『猫』(テレビ東京系)、『MIU404』、『捨ててよ、安達さん。』(テレビ東京系)などをベストテンに入れています。

木俣冬(以下、木俣):「飛び抜けてこれがすごかった!」と言える作品はないのですが、脚本が作り込まれていたという点で『MIU404』(TBS系)を挙げたいです。あとは単発ドラマになってしまいますが、12月に放送された『ノースライト』(NHK総合)。簡単に言えば、バブル崩壊前に青春を謳歌していた大人たちが、失った何かを取り戻そうというお話なんです。時代背景はやや古くも感じつつも、「喪失感」と「再生」いう点では現在の状況といろいろと重なるところがあり、西島秀俊さんと北村一輝さんのお芝居も非常にきめ細かかった。コロナ禍によって、密集したシーンが撮れないからホームドラマがメインになったり、込み入ったセットを立てて大掛かりな撮影ができなかったり、“贅沢”ができない状況だと思うのですが、このドラマは細部までこだわり抜かれた濃厚さがありました。あとはこれもNHKになってしまうのですが、三浦春馬さん、有村架純さん、柳楽優弥さんによる『太陽の子』。戦時中を舞台にした作品ながら、戦争の善悪を全面に押し出すのではなく、あくまでこの時代を生きた人の生活を丁寧に描き、それが失われることはどういうことか問いかけているようなところに好感が持てました。そして、これもNHKですが『光秀のスマホ』。コラム(参考:2020年の傑作『光秀のスマホ』を見逃すな! 歴史×バラエティ×ドラマが掛け合わされた新感覚の作品)にも書いたように、目から鱗な提案をしてもらった思いで、表現の新しさにやられました。NHK作品ばかり挙げてしまったんですけど、非常事態になった今年、NHKのこれまで培ってきたスタッフワークの底力のようなものが発揮されていたように思います。

田幸:私も『光秀のスマホ』は楽しみました。「こういう手があったんだ」と明るい気持ちになれる作品でしたね。コロナ禍以降、どうしても“いまをどう描くか”ばっかりになっていて、重たい空気になっていたので、新しい突破口を開いたなという気はします。

成馬:「コロナ禍とは距離を置きたい」と作り手も感じ始めていますよね。『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)は人々がマスクをちゃんと付けている世界をちゃんと描いていたので、第1話を観たときはすごいと驚きました。ですが、終盤に向かうにしたがって、本編と10~12月現在の私たちが感じている「コロナ禍」の認識との間にズレが生じているようにも感じました。感染拡大が広がっている中で「あの頃は大変だったね」という過去として「コロナ禍」を描いているように見えて、少し呑気に感じました。コロナ禍って1カ月単位で状況が変わっているので、劇中に反映させようとすると難しいですし「希望を描きたかった」という意図はわかるのですが。10月クールドラマは、どこまでコロナ禍の現実を描くのか(あるいは距離をとるのか)、そのバランスに苦心しているように見えました。



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