『鬼滅の刃』大ヒットと『ジャンプ』アニメの隆盛 2020年を振り返るアニメ評論家座談会【前編】

2020年を振り返るアニメ座談会【前編】

『アベンジャーズ/エンドゲーム』と『鬼滅の刃』

杉本:子ども経由で広がったというのは面白い解釈だと思います。今年、『今日から俺は!!劇場版』が『鬼滅の刃』に次ぐ邦画2位の興行収入をあげていますけど、あの原作の連載当時読んでいた世代が小さい子どもを持つ年齢になっていて、子どもと一緒に見ている人たちが多かったんです。実際、劇場にも親子で観に来ている人が多かったんです。そうやって親子2代に受けるコンテンツというのが今ヒットを生む重要な要素になってるんじゃないでしょうか。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(c)Marvel Studios 2019

渡邉:あと、これは特にエビデンスがあるわけでない、「批評的」な見立てなんですけども、僕には、今回の『鬼滅の刃』の国内興収1位に至る大ヒットの形は、コロナ禍などいくつかの背景はありますが、2019年に同じく世界の興収で1位を奪取した『アベンジャーズ/エンドゲーム』と、作品の構造を含めすごく重なる部分があると思っています。また、そもそもそれ以前に、2016年に日本では『君の名は。』が邦画では当時歴代2位の大ヒットになったわけですが、これもその2年前の2014年に日本公開された『アナと雪の女王』のヒットの仕方と非常にアナロジーが感じられます。いわばポストMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)と呼べるようなヒットの構造が2010年代を通じて徐々に国内外で形成されてきたとともに、常に、ハリウッド映画が現象として先行して、その何年か後に、邦画が同じような感じでヒットする。この見立てに関してはいかがでしょうか?

杉本:たぶん、日本で起きていることが世界でも連動して起きているんだと思うんですよね。なので、単発の映画だと、もう世界観として薄いと感じている人が多いのかもしれません。

渡邉:『アベンジャーズ/エンドゲーム』が世界興収で1位になったときも、あれはシリーズ最終作ですけど、一連の続き物のコンテンツというのが1位になってしまったわけで。一つの大きな世界観に基づいて作られる続き物の作品というのは今でいえばNetflix的と言えるでしょうが、繰り返しになりますけど、同じような作品が1年のブランクの差で世界と日本でそれぞれ1位の記録を塗り替えるというのは、世界的に大きな曲がり角が来ているなと感じます。そして、それはおそらくは『アナ雪』と『君の名は。』の関係からずっと続いている流れでもあるような気がして。なので、もちろんこのコロナ禍で2020年にアニメの興行が大きく変わるということはあると思うんですけど、私としては、今年すべてがいきなり切断されて新しいことが始まりました、という感じにはあまり思っていません。むしろ、2020年に起こったことは、2010年代から徐々に起こってきていた地殻変動がわかりやすい形で出たという方が実態に則している感じがしています。

藤津:MCU的なものというか、大きな世界観の中のものを切り出していくという話でいうと、広い意味で、テレビと映画の境界がアニメにおいても曖昧になりつつあるというところがあって。1つは、何年か前から特に角川を中心にラノベなどの人気シリーズをテレビでやったら、必ず劇場版を作るという流れがありますよね。それは、角川がシアターを持ったということもおそらく関係があるんですけど。で、劇場版といいつつも予算感はいわゆる旧来の劇場の予算ではない予算で作っているんですよね。なので、そういう意味でいうと、昔やっていた「まんがまつり」的な発想で、テレビの延長を劇場でご覧くださいという要素ですよね。それが良いものか悪いものかは作品によって決まるわけですけど。そういう意味で、映画とテレビの間が曖昧にはなってきているよなとは思うんです。そういう作品だと、映画に求められるクオリティー感も、テレビのクオリティが底上げされた結果、ほどほどで見応えあればというくらいの落としどころになってきているような感じがします。

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