『鬼滅の刃』大ヒットと『ジャンプ』アニメの隆盛 2020年を振り返るアニメ評論家座談会【前編】
『週刊少年ジャンプ』の海外展開
――ここ最近、『鬼滅の刃』と並んで、先ほどおっしゃっていただいた『呪術廻戦』や『僕のヒーローアカデミア』など、『週刊少年ジャンプ』のアニメの盛り上がりがさらに高まっている印象があります。
杉本:近年の『少年ジャンプ』は確かに面白いですよね。若い才能が次々と出てきていて、編集部のプロデュース力が相当高いんだと思います。『呪術廻戦』の芥見下々さんと『チェンソーマン』の藤本タツキさんはともに28歳でしょう。断然これからさらに延びる人たちですよね。『呪術廻戦』はアニメーションのクオリティも高いですし、どこかのタイミングでキャズム超えるんじゃないでしょうか。『鬼滅の刃』にも言えることですが、作品の構成要素はこれまでの『ジャンプ』作品に似ている部分は多々ありますが、それはあくまで容れ物で、中身となる作家の感性はとても現代的で新鮮です。こういう容れ物に入れるとヒットさせやすいという『ジャンプ』が培ってきた法則に、若い作家の新しい感性が上手く入っているなと感じます。
藤津:2019年にラジオに出たときに、「今年はすごくジャンプアニメが多いんですよ」という話をしたんです。2019年だと『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』『食戟のソーマ』もアニメをやっていて、本誌ではないけど、『ジャンプ+』の『彼方のアストラ』もアニメ化されていて、『ジャンプ』に関したタイトルがすごく多かった。それがいっときでは終わらずに、さらに盛り上がっている感じがします。トップの作品は国内市場で強いんですけど、例えば『食戟のソーマ』や『Dr.STONE』は、国内で人気がそんなに強いわけではなく、海外ですごくニーズがあるそうです。なので、『ジャンプ』のタイトルが海外の人たちに届きやすくなっているんですよね。そうなってくると、ジャンプ編集部も、本筋は漫画だけど、アニメも見据えて一体となって盛り上げていこうみたいものがあるんじゃないかなと。昔は、アニメ誌では、ジャンプアニメを取り上げるときは見開きまで、表紙はNGというルールがあったんです。それがここ15年ぐらいの間でしょうか、いろいろ解禁になって、ルールが徐々に緩くなっているんですけど、僕の想像では、その突破口は『銀魂』だと思うんです。『銀魂』はかなりアニメと原作の相性と連動性が良くやっていたことで、手ごたえがあったんじゃないかなと。それが、ここにきて改めてうまく実がなるようになってきたと。
渡邉:先程のジャンプ漫画が海外にも進出しているということでいうと、例えば昨年全国公開されて話題を呼んだ中国アニメの『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』などは完全に『ドラゴンボール』みたいな感じでした。ああいう作品を観ると、やはり、ジャンプアニメのような表現や、観客側のリテラシーは、海外に広がっているなと感じます。
藤津:ありますね。クランチロール(Crunchyroll)がテレ東のアニメをわりとすぐアメリカで観られるような体制にしたのが2008年以降なんですが、そういうことによって、日本のアニメが日本だけのものじゃなくなっていくという流れが起きている。一部のマニアに、“ミュージシャンズミュージシャン”的に好まれていたと。もちろん、その社会で多数派を形成するには至らないんですけど。
杉本:でも、好きな人の裾野が確実にどんどん広がってきているという印象が最近ありますよね。『ヒロアカ』の劇場版は、アメリカでも結構ヒットしていましたよね。