年末企画:小田慶子の「2020年 年間ベストドラマTOP10」 エンタメを提供しつづけた作り手にリスペクト

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2020年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出する。第16回の選者は、ライター/編集者の小田慶子。(編集部)

1.『スカーレット』(NHK総合)
2.『MIU404』(TBS系)
3.『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)
4.『麒麟がくる』(NHK総合)
5.『今際の国のアリス』(Netflix)
6.『半沢直樹』(TBS系)
7.『知らなくていいコト』(日本テレビ系)
8.『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』(BSプレミアム)
9.『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)
10.『光秀のスマホ』(NHK総合)

 「運動会は参加することに意義がある」というような平等主義はどうかと思うけれど、コロナ禍の2020年だけはこう言いたい。ドラマの撮影中断、放送延期や休止が相次いだ状況下で「ショウ・マスト・ゴー・オン」の精神でエンターテインメントを提供しつづけたキャストとスタッフの皆さんはえらい。その苦労に比べれば、自宅という安全圏から皆さんにリモート取材をしていた私なんて、『鬼滅の刃』で逃げを打っているときの我妻善逸のようなヘタレぶりである。お、俺はなぁ、ものすごく弱いんだぜ、なめるなよ……。そんな己の立ち位置と作り手へのリスペクトを忘れないようにしつつ、今年も連続ドラマの中から感動と驚きをくれた10本選ばせてもらった。

1.『スカーレット』

こんなに不満のない朝ドラは久しぶり! 最初から最後まで飽きずに観られ、毎朝の放送が楽しみだった。陶芸を仕事にした喜美子(戸田恵梨香)が芸術家として目覚め、その自分の業に苦しみながらも力強く生きていく。『みかづき』(NHK総合)でも主人公を欠点も多いが仕事していきたい女性として描いた脚本家・水橋文美江にぴったりのテーマだった。戸田恵梨香は、ここ数年、民放の出演作では当たり外れがあったが、ワンアップした感じあり。彼女が生き生きと演技しているところに、夫役に抜擢された松下洸平が彗星のように現われ、漫才コンビのようなやり取りやエモいイチャラブを繰り広げる。2人の化学反応が楽しかった。息子役の伊藤健太郎も、病に襲われるという悲劇的な役どころを真摯に体現してみせた。役者の表情で語らせる演出もよかったし、「神は細部に宿る」というが、陶芸の手法をしっかり描き、観
ているうちに穴窯や釉薬などの知識が増えたのもうれしかった。『MIU404』とどちらを1位にするか悩んだが、半年という長丁場を持たせた点と、脚本家の内包するテーマが前面に出ていた点でこちらを選んだ。

2.『MIU404』

『MIU404』(c)TBSスパークル / TBS

 今年最もワクワクしながら観た作品。『アンナチュラル』(TBS系)の脚本・野木亜紀子、演出の塚原あゆ子らによる刑事ドラマで、魅力的なキャラクターとリアルなセリフのやりとり、緻密な構成、スピーディーな展開に興奮。海外ドラマのようなこのクオリティで社会問題をも提起するドラマは現状、このチームにしか作れない。そこに今回は綾野剛と星野源がインして積極的に演技も提案し、男女混合チーム的にバランスが取れた作品になった。取材もたくさんさせてもらったのだが、これまでの記事に書けなかったことをひとつ。本作のテーマは最終回での桔梗隊長(麻生久美子)のセリフ「小さな正義をひとつひとつ拾ったその先に、少しでも明るい未来があるんじゃないですか」に込められているのではないか。劇中で描かれる警察組織が保守的であるように、世界はそう簡単に変わらないけれど、伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)がそうしたように、ひとりひとりが見いだした正義を成していくしかない。明るい未来をあきらめてはいけない。それは、コロナ禍の今だからいっそう胸に響くメッセージになった。

3.『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』

『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(c)日本テレビ

 このドラマには「コロナ禍によく適応したで賞」を進呈したい。他のドラマが回避したマスク着用での演技を敢行し、ニューノーマルの生きづらさを笑いにまで昇華していた。詳しくは最終回後にアップされた記事に書いたので、よろしければご一読を(参考:マスク着用で通した『#リモラブ』が構築した新しい恋愛ドラマの形 ニューノーマルの先駆的作品に

4.『麒麟がくる』

『麒麟がくる』(写真提供=NHK)

 最終回は2021年に持ち越しになってしまい、果たして主人公の明智光秀(長谷川博己)は「敵は本能寺にあり!」と言うのか、言わないのか? そこが肝心なのだが、期待を込め4位に。ベテラン脚本家・池端俊策らしい小ネタなしの直球の歴史劇で、40歳近くまで歴史の脇役だった光秀は、劇中でも存在感が強くはない。その分、前半を引っ張ったのは道三を演じた本木雅弘、突然の代役で火中の栗を拾った帰蝶役の川口春奈、そして、顔かたちはパブリックイメージの信長と違うのに、今や信長そのものにしか見えなくなった染谷将太。美しく魅力的なキャストと絵画のような映像を見せてくれるカメラ、そして室町とは、戦国とはどういう時代だったのかという歴史観に裏打ちされた物語が見応え充分だった。乱世が収まるときに現われるという麒麟とはいったい何なのか? その哲学的な答えが明かされるのが楽しみ。

5.『今際の国のアリス』

『今際の国のアリス』(c) 麻生羽呂・小学館/ROBOT

 Netflixのオリジナルドラマは『全裸監督』など題材が内向きのものが多かったが、ようやく世界市場に向き合ったものが出てきた。主人公が渋谷駅のトイレに入った間に世界から人が消えてしまい、無人のスクランブル交差点が映し出される。後半では車が1台も走っていないレインボーブリッジを主人公たちが自転車で渡る。VFXを使っているとしても、こういうスケール感のある“画”が実写ドラマで見たかった。これはいわゆるシネフィルからはスルーされながらも、漫画原作の映画を本気で作り続けてきた佐藤信介監督だから成し得たこと。その佐藤監督と映画『キングダム』に続いて組んだ山崎賢人演じる有栖は、狂った異世界に迷い込み、理不尽にも大切な人たちを失い、それでも優しさを失わずに生き抜こうとする。そんな『鬼滅の刃』とも共通する設定が、どう考えてもたいへんな未来を生きる若い世代にとってはリアルなのかも。

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