“おひとりさま”を描き続けているのは“たまたま”? 『私をくいとめて』大九明子監督が明かす

『私をくいとめて』大九明子監督コメント

 のんと林遣都が共演する映画『私をくいとめて』の監督を務めた大九明子が、“おひとりさま”の主人公を描き続ける理由を明かした。

 本作は、高校在学中の2001年に『インストール』で第38回文藝賞を受賞しデビュー後、芥川賞、大江健三郎賞など数々の賞を受賞してきた綿矢りさの原作の小説を、『勝手にふるえてろ』に続き、大九監督が再びメガホンを取り映画化するもの。

 脳内に相談役=「A」を持ち、充実した“おひとりさまライフ”を楽しむ、31歳・みつ子(のん)が、ときどき会社へ営業にやって来る年下男子・多田くん(林遣都)に“予期せず”恋に落ちる。失恋すれば巨大なダメージをくらう31歳“崖っぷちの恋”に、「A」と共に勇気を出して一歩踏み出していくが……。

 本作は、第33回東京国際映画祭で、今年唯一のコンペティション部門である「TOKYOプレミア2020」部門にて観客賞を受賞。大九監督にとっては、『勝手にふるえてろ』以来2度目の受賞となった。史上初の快挙を達成した大九監督だが、もともとはお笑い芸人や俳優など表現者として活動。紆余曲折を経て、『意外と死なない』にて映画監督デビューを果たした、異色の経歴の持ち主だ。『勝手にふるえてろ』を筆頭に、『美人が婚活してみたら』や『甘いお酒でうがい』など、さまざまなタイプの独身女性をヒロインに据えた作品を次々と発表。女性のリアルな心情や現実を丁寧に描いている。

 その理由について大九監督は、「たまたま一人でいる女性が主人公の、魅力的な題材に出会っているだけだと思います」と答える。「私自身、人と付き合っていくことのしんどさから逃げるところがあるんです。ものづくりも、他者が怖いからこそ笑っていてほしくて作っているところがあります」と作品に込められた想いを吐露。これまで描いてきた女性たちと自分自身に重なる部分も多く、「知らず知らずのうちに、ひとりでいる人にスポットがあった作品になりがちなのかもしれません」と振り返る。

 映画監督デビューから約20年を迎えた大九監督だが、最新作に選んだのは、綿矢りさ原作の同名小説。最初は映画にするつもりなく読んでいたという大九監督だが、「もし他の誰かがこの作品を映画にして、私の好きな綿矢文学の世界が、私の期待しているものとは違う形で映像化されたら嫌だなと思い、すぐにシナリオを描いた」と並々ならぬ熱意を明かす。

 本作では、脳内に相談役「A」を生み出し、快適なおひとりさまライフを送る主人公・みつ子が、年下男子・多田くんと出会い、久しぶりの恋に一喜一憂しながらも前に進んでいくさまが描かれる。そんなみつ子の魅力について、「全部自分で起こっていることなのに、他人事のようにAのせいにしたりしているのが、呑気で面白いですよね」と語る。「でもその呑気さの裏で、実はいろんなことに傷ついていたりするんだろうなと思い、そういった部分をあぶりだしたいなと思いましたし、どこにでもいる31歳の女性だからこそどう表現するかが難しく、やりがいがあると思いました」と振り返った。

 最後に大九監督は「全ての人に見て頂きたい作品ですが、特に“自分には眩しすぎるかな……”と感じている人ほど見ていただきたいです。私は、自分自身のためと、そんなあなたのために、映画を作っています。薄暗い劇場で、いつものスタッフとお待ちしています」と締め括った。

■公開情報
『私をくいとめて』
12月18日(金)、全国ロードショー
出演:のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、前野朋哉、山田真歩、片桐はいり、橋本愛
監督・脚本:大九明子
音楽:高野正樹
劇中歌:大滝詠一「君は天然色」(THE NIAGARA ENTERPRISES.)
原作:綿矢りさ『私をくいとめて』(朝日新聞出版)
製作幹事・配給:日活
制作プロダクション:RIKIプロジェクト
企画協力:猿と蛇
(c)2020『私をくいとめて』製作委員会
公式サイト:kuitomete.jp
公式Twiter:@kuitometemovie

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