松本利夫主演映画『無頼』から改めて昭和を振り返る 井筒和幸監督8年ぶりの新作は集大成に
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、温室育ちの島田が『無頼』をプッシュします。
『無頼』
井筒和幸監督8年ぶりの新作『無頼』が、12月12日より公開となります。『ガキ帝国』『岸和田少年愚連隊』……とこれまでも多くのアウトローをモチーフにしてきた井筒監督。8年という長いラグを設けたのは、本作がこれまでの集大成的作品になると井筒監督自身が考えていたからかもしれません。裏社会の頂点を目指す不屈の男・井藤正治(松本利夫)率いる一家の半生を描いていく、まさに日本版『ゴッドファーザー』とも言える作品です。
長い時間史観でストーリーを構成する本作の特徴は、ある種「実録モノ」にもなっているということ。敗戦直後の動乱期から所得倍増、奇跡の高度経済成長、政治の季節とオイルショック、さらにはバブルの狂騒と崩壊……日本の昭和史が実際の映像も用いながら、極貧ゆえに社会から抑圧を受けてきた井藤の人生と並行する形で描写されます。
戦後。戦争が終わった時、何をしなければならないのかーーそんな日本の焦燥がスクリーンに映し出されていると思うのはいささか誇大妄想的でしょうか。井藤もまた、当時日本のメタファーとも言えるかもしれません。母の顔も知らず、甲斐性なしの父も亡くなるというスタートからアウトローとして再起を図る井藤は、もはや大きな理由すら必要とせず「頂上」を目指していきます。
Netflix『全裸監督』のヒットも印象的でしたが、近年改めて昭和史を振り返るような作品が増えているような印象です。『仁義なき戦い』公開からもうすぐ50年近くが経とうとしているわけですが、ある意味ああいった作品のリバイバルが今起きているのかもしれません。