『少年寅次郎』の“朝ドラ”化も期待したい すべての出演者を生かす岡田惠和脚本の真髄

『少年寅次郎』の“朝ドラ”化も期待

 『少年寅次郎スペシャル』(NHK総合 )は、2019年に放送された土曜ドラマ『少年寅次郎』の続編。レジェンド映画シリーズ『男はつらいよ』の主人公・寅さんこと車寅次郎の少年時代を山田洋次監督が小説として書いた『悪童(ワルガキ) 小説 寅次郎の告白』を岡田惠和の脚本でドラマ化したもの。

 昭和のはじめ、東京・葛飾柴又で、悪ガキとしてすくすく育った寅次郎(幼少期:藤原颯音)が、戦争を経て、母・光子(井上真央)が亡くなったことをきっかけに故郷を旅立つまでが『少年寅次郎』で描かれた。スペシャルの前編は、昭和25年11月3日、寅次郎(少年期:井上優吏)が柴又の家を出てから1年後からはじまる。実家の菓子店は、妹・さくら(野澤しおり)が看板娘となって繁盛していた。もうすぐ光子(井上真央)の月命日だとさくらが思っていると、すっかり羽振りがよくなった寅次郎が意気揚々と帰ってきた。……とそれはさくらの妄想。

 その頃、14歳になった寅次郎は、山形にいた。般若の政吉こと米田政吉(矢崎広)について露天商の修業中。その姿は、映画の寅さんにだいぶ近づいている。

 「私、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。性は車、名は寅次郎、人呼んで風天の寅と発します(以下略)」という映画でおなじみの前口上を政に教わり、服装も寅さんぽい。もともと、演じている井上優吏が寅さんを演じた渥美清によく似ていたが、ますます寅さん化して、このまま、令和の『男はつらいよ』ができそうな気がしてくる。

 寅次郎は神社の境内で、工場の火事で燃え残った万年筆を安く売っているという芝居によって客の同情を買い、商品を売る。政は、客もうすうすわかってかっているのだと言い、当時はこういうことが当たり前で、ある意味、売り手と買い手が共通認識で楽しむイベントのようなものだったことを匂わせる。映画の寅さんは、こういう仕事を生業に、日本を転々として、ときどき柴又に帰ってくるのだった。

 山形で寅次郎が泊まった黒羽屋には、初恋の人・さとこ(森七菜)が働いていた。さとこは失恋をきっかけに田舎に帰っていて、この再会から寅次郎にワンチャンあるか……と思いきや、そこは寅さんだから、恋は実らない。もうすぐ結婚するというさとこに、別れ際、寅次郎は、元気が出ると口上を教える。

「姓は高瀬、名はさとこ、ひと呼んで、山形りんごのさとこと発します」

 訛りながら、口上を言って微笑むさとこ。『この恋あたためますか』(TBS系)で堂々主人公を演じている森七菜の、小柄なカラダにたくましきエネルギーとすべてを物語化してしまえる叙情性がここでも存分に発揮されていて、令和のマドンナにふさわしく感じた。

 井上優吏はすっかり背が伸びてオトナのようだが、まだ声変わりしてないようなやや高い声で、その不思議な違和感が魅力になっている。

 旅の途中、真っ赤なりんごを見ながら、寅次郎は子供時代を思い出す。初恋のひとからもらったりんごが、過去と現在を結びつける。ここから過去――藤原颯音演じる幼い寅次郎のターンに。

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