国民的猫型ロボットが落ちこぼれであることを思い出したい『STAND BY ME ドラえもん2』

ドラえもんは完璧な存在ではない?

大山ドラと水田ドラで異なるドラえもん像

 こんなふうに、ドラえもんはどちらかというとのび太と一緒に慌てふためくことが多いしブラックユーモア満載で、例えるなら何の責任も負わない親戚の調子のいい叔父さんみたいなところがある。しかし、大山のぶ代によるアニメ版ではこれが少しずつ変化していく。最終的には落ち着いた様子でのび太を温かく見守り、時には諭す指導者、つまり母親のような存在になった。これは大山のぶ代のしわがれた声そのものが大きく影響している。

 ところが、2006年に声優の大幅な編成替えや作画を一新したリニューアルが起きる。そこで生まれた新ドラえもんは、まるで大山のぶ代時代のものと似ても似つかぬものだった。新たに声優に抜擢された水田わさびの声は、よりハイトーンなアニメボイス。テンションも高く、大山ドラにあった落ち着きは皆無。悪ノリも増え、すっかりドタバタした雰囲気になっている。そう、製作陣は一新する際にドラえもんをより漫画に近いイメージに軌道修正したのだ。しかし、アニメの作風自体は大人向けから子供向け路線に変更。ブラックな部分はあまり出さず、教育やポリティカル・コレクトネスを意識した内容になっていきました。

「ダメなやつ同士でいい」不完全さに肯定的なメッセージ

 多少ドラえもんの雰囲気が変わったとはいえ、実は彼における大事な要素はそこまで変わっていない。つまり、相変わらず落ちこぼれ。『STAND BY ME ドラえもん 2』では、それが顕著に描かれている。この八木竜一監督×山崎貴脚本・共同監督によるフルCG版『ドラえもん』映画は、1作目の冒頭で「のび太を恐ろしい未来から救う」のではなく「幸せにするためにきた」ことになっているなど、プロットの都合に合わせて従来のドラえもんとは多少の違いがある。とはいえ、声は水田わさびが当てているので、水田ドラと考えていいだろう。

 『STAND BY ME ドラえもん 2』ではドラえもんがとにかくヘマをする。タイムマシンに乗るなら何が起きても大丈夫なように、点検をしていた道具を回収するべきだし、大人のび太の魂が入った子供のび太を探すのも、かなり非効率的な方法をとっている。いざ「どこでもドア」を使っても考えなし過ぎて、すぐに見つけられない。本作で暴走する大人のび太もあんまりだけど、ドラえもんも普段よりポンコツで見ていられない! 一番やっちゃいけなかったのは、身を持って素晴らしい学びを得たのび太に「忘れん棒」を誤って使い、記憶をなくしてしまったこと。せっかく2人で大事なことを学びながら大人のび太が結婚式当日に逃げ出す運命を変えたのに、子供のび太がそれを忘れてしまったら、やはり大人のび太は式から逃げ出してしまうのではないだろうか。

 とはいえ、ドラえもんを責めてはいけないなと思う。のび太のことも。彼らが落ちこぼれでなくなってしまったら、もうそれは『ドラえもん』じゃないからだ。『ドラえもん』とは、何をやっても人が当たり前にできることができないのび太と、ロボットという完璧な存在のはずなのに落ちこぼれなドラえもんの2人が「そんな君でもいい」と、お互いの不完全さを肯定し合っている図が優しいのではないだろうか。


 「特定意志薄弱児童監視指導」という肩書きのドラえもんが、そんなのび太を更生しにやってきた。しかし、長い時間をかけて共に過ごした彼がのび太に見たもの、それは不器用なりに人一倍誰かの喜びや悲しみに共感できる彼の優しさや正義感だった。そして、そんな彼をドラえもんは変えたいなんてもう思わない。指導者としてではなく、友達という立場になった2人は誰よりもお互いの悩みを理解しあえるだろうし、ダメなやつでもお互いのことを見捨てたりしない。

 『STAND BY ME ドラえもん 2』は身内の死の記憶や結婚と、大人向けの内容だった。のび太が得たもの、それが単なるひみつ道具を出してくれるロボットではなく、一生涯の友達だったということも逆に子供の頃より大人になった今の方が羨ましい。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードハーフ。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。InstagramTwitter

■公開情報
『STAND BY ME ドラえもん 2』
全国公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:八木竜一
脚本・共同監督:山崎貴
声の出演:水田わさび(ドラえもん)、大原めぐみ(のび太)、かかずゆみ(しずか)、木村昴(ジャイアン)、関智一(スネ夫)、宮本信子(のび太のおばあちゃん)、妻夫木聡(大人のび太)
主題歌:菅田将暉「虹」(Sony Music Labels Inc.)
配給:東宝
制作:シンエイ動画、白組、ROBOT
制作協力:藤子プロ・阿部秀司事務所
製作: シンエイ動画、藤子プロ、小学館、テレビ朝日、ADKエモーションズ、小学館集英社プロダクション、東宝、電通、阿部秀司事務所、白組、ROBOT、朝日放送テレビ、名古屋テレビ、北海道テレビ、九州朝日放送、広島ホームテレビ、静岡朝日テレビ、東日本放送、新潟テレビ21
(c)Fujiko Pro/2020 STAND BY ME Doraemon 2 Film Partners
公式サイト:doraemon-3d.com

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