『Mank/マンク』『シカゴ7裁判』など力作揃いのNetflixが席巻? 2021年のオスカーの行方を占う
Netflixが映画界で大きな存在感を示したのは2017年のカンヌ国際映画祭のことで、その時にはコンペティション部門に出品されたポン・ジュノの『オクジャ/okja』とノア・バームバックの『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』が、フランス国内で劇場公開を前提としていないことを理由に選考から外されそうになるという事態に発展。そうした論争によって、極めてネガティブな形で映画が「劇場公開されるもの」から「ネット配信されるもの」へと変化するかもしれないという、あまりにも先進的でぼんやりした問いに直面することになったものだ。
ところがそれから3年間の間に、名だたる監督たちが続々とNetflixをはじめとした動画配信サービスで新作を発表し、そして2020年。新型コロナウイルスの感染拡大によって映画館自体が開くことができない状況に陥り、劇場公開と動画配信サービスとの関係は急激な変化を余儀なくされた。新作映画を観るために映画館に行くという常識が本格的に崩れ、家にいながら新作映画を観ることができるように。それはもともと配信を前提として作られていない作品であっても同様で、ディズニープラスを擁するディズニー、HBO Maxを擁するワーナーなど、主要なスタジオもその流れに追随せざるを得なくなったわけだ。
さて、ここからが本題だ。たとえ明日が見えない状況下であっても祝い事というのは必要不可欠なものである。毎年2月ごろに発表される、その前年に公開された作品の中から優れた作品を表彰するアカデミー賞のことだ。前述したような激動の中では、当然のようにアカデミー賞も変化を強いられる。通常であれば「ロサンゼルスの映画館で7日間以上連続して上映された作品」が候補資格を得るのだが、今年は劇場公開を断念して配信に切り替えた作品にも資格が与えられることに。それでもやはり、多くの作品が公開を延期するという苦渋の決断を迫られることになり、候補資格を得られる範囲を2月までに拡げ、授賞式を4月に延期しても、おそらく有資格作品はかなり限定されることになるだろう(昨年は344本、一昨年は347本だったが、今年は200本前後あればいい方ではないだろうか)。
Netflixが頭角を現す(つまりは「名だたる監督たちが〜」が主なところだが)ようになってから、同社の作品はアカデミー賞の候補資格を得るために配信前に限定的な劇場公開を行なってきた。もっともそれはすべてのオリジナル映画ではなく、明らかに賞レースを見越した作品に限った話である。そうして賞レースに本格的に初参戦したのが第90回の『マッドバウンド 哀しき友情』(この時は助演女優賞など4部門にノミネートされた)、そして第91回ではアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』が10部門にノミネートされ、国際長編映画賞と撮影賞、監督賞を受賞。前哨戦などから有力視され、かつ授賞式の流れも向いていたにもかかわらず、作品賞では『グリーンブック』に敗北することになったが、配信サービスへの否定的な意見も目立った時期としては充分すぎる成果だったといえよう。
昨年の春頃、第92回に向けた理事会でこうした配信作品の是非を問う(むしろ限りなく不利になるような)ルール変更への議論が進められたそうだが変更には至らず、結果として第92回ではマーティン・スコセッシの『アイリッシュマン』が10部門、ノア・バームバックの『マリッジ・ストーリー』が6部門、フェルナンド・メイレレスの『2人のローマ教皇』が3部門にノミネートされる大活躍。このなかで受賞できたのは『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンのみに留まったが、アニメーションやドキュメンタリーなどを含めればスタジオ別で最多のノミネートを獲得し、長編ドキュメンタリー賞も『アメリカン・ファクトリー』で受賞している、極めて華やかな3年目になった。