『恋する母たち』が示す甘美な“脳内麻薬” 母たちは人生の苦しみにどう立ち向かうのか

『恋する母たち』が示す甘美な“脳内麻薬”

「恋と性欲って、あんまり違わないんじゃない?」

 金曜ドラマ『恋する母たち』(TBS系)では、柴門ふみ原作漫画らしいドラマチックな展開が次々と繰り広げられる。今をときめく芸能人からの強引なアプローチ、イケメン部下からのいたずらっぽい壁ドン、そして探し求めていた人の記憶喪失……。

 母たちは、グラッと心が動くのを感じる。これは、恋なのか……? まり(仲里依紗)は思わず、杏(木村佳乃)に電話をかける。まりとしては、きっと10代のころのように恋バナで盛り上がれると思ったのかもしれない。

 結婚したら卒業しなければならないと思っていた、年齢を重ねるたびに諦めなければならない覚悟していた、求められる快感。しかも、相手は人気落語家・今昔亭丸太郎(阿部サダヲ)というステータスも彼女の心をくすぐる。

 “社会的に認められている人気者に追われる私”という甘美なシチュエーション。どうしよう! 嬉しい! でもダメだよね? と浮かれてしまう。

 そんなまりの話を聞いた杏は、その恍惚感は恋ではなく性欲だと言い切る。それは、かつて杏が斉木巧(小泉孝太郎)と衝動的に肌を重ねたことを踏まえての結論だ。衝動的な快楽に身を委ねずにはいられないときがあることを、杏は知ったのだ。

「性欲の延長線上に恋があるのか、恋の延長線上に性欲があるのかわからないけど、怒りとか恐怖の延長線上にも性欲はあるの」

 それを「恋」と呼ぶにはあまりにも不純で、通常の感覚の自分だったらありえない行動だった。むしろ嫌悪してもいいくらい。でも、一歩踏み出してしまう何かが人生にはあるのだ。

 杏の場合は、突然夫が様々な罪を犯して失踪したことへの精神的なショック。当然、夫への怒りもある。そして、これから子供を1人で育てていけるのかという恐怖もある。その辛くて苦しい状況に追い込まれたとき、身体はエンドルフィンやドーパミンを分泌して、神経を落ち着かせようとしたり、力を振り絞ろうとしたりする。

 痛みや苦しみを軽減させ、多幸感や充実感を呼び起こすエンドルフィンやドーパミンなどは、様々な場面で分泌される。ランナーズハイもそうだし、どか食いをしたときにも、目標を達成したときにも、もちろん恋をしたり性的快楽を得たときにも……。

 だから、怒りと悲しみと性欲とぐちゃぐちゃの状態を、「恋」というキレイな言葉のオブラートで包んで、ごくんと飲み込んでしまいたくなるのかもしれない。刹那的にも、その苦しみから逃れられたような気分になれるから。

 でも弱っているときこそ、甘美な響きに注意する必要があることを忘れてはならない。これらの分泌物は“脳内麻薬”という異名を持つように、そのうち抗いようのないほど強い誘惑となっていく。

 まりだって、ずっと怒っていたのだ。ずっと夫は不倫を続けていることを知っていたし、不倫相手が乗り込んできたときには恐怖を感じた。自分が築き上げてきたホームに招かれざる客が土足で踏み込んでくることほど不快なことはない。

 そんな頭が痛い思いをしているところに、丸太郎が現れた。彼と交わす言葉はまるで痛み止めのように彼女の不快感を取り除き、彼と過ごす時間はむしろ気分を上げてくれる。それを手放せばまた痛みが待っているのだとしたら……。

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