トレンディドラマの波は今もなお健在? 柴門ふみ原作がドラマ界にもたらした影響

柴門ふみ原作がドラマ界にもたらした影響

 金曜ドラマ(TBS系金曜夜10時枠)で放送中の『恋する母たち』は、柴門ふみが『女性セブン』(小学館)で連載している45歳前後の母親たちの不倫を題材にした恋愛漫画を、ドラマ化したものだ。

 主演は木村佳乃、脚本は『セカンドバージン』(NHK)を筆頭とする大人のメロドラマを多数手掛けている大石静。金曜ドラマで大石が執筆するのは、戸田恵梨香、ムロツヨシの共演で話題となった2018年の『大恋愛~僕を忘れる君と』以来。『凪のお暇』や『MIU404』といった作品で、勢いを盛り返しつつある金曜ドラマだけに、どこまで話題になるのか注目されている。

 原作を担当する柴門ふみは、坂元裕二の出世作となった『同・級・生』(フジテレビ系)や『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)、北川悦吏子の出世作となった『あすなろ白書』(フジテレビ系)といった80年代末から90年代にかけてのフジテレビ系の恋愛ドラマ(の原作)にはかかせない存在で、当時は“恋愛の神様”と呼ばれていた。

『東京ラブストーリー』(c)フジテレビ

 この時代は「恋愛こそが世界のすべて」という価値観が席巻しており、消費の中心には常に若い女性たちがいた。昭和の終わりから平成初頭の、バブルは崩壊したが、数年たてば好景気の日本が戻ってくるのではないか? という希望がギリギリ残っていた90年代前半の空気を思い返すと、柴門ふみの漫画を原作とする恋愛ドラマのことを思い出す。

 一方、この時代は、柴門ふみの夫としても知られる漫画家・弘兼憲史が切り開いた『課長島耕作』(講談社)などのサラリーマン漫画の時代でもあった。バブル景気に下支えされた高度消費社会の下で、男は(年功序列と終身雇用がまだ残っていた)昭和型の会社社会で派閥抗争と社内不倫を楽しみ、1986年の男女雇用機会均等法施行以降に社会進出した『東京ラブストーリー』のヒロイン・赤名リカと同世代の女たちは、仕事と恋愛を謳歌しながら、バブルの豊かさに支えられた束の間の自由を謳歌していた。2人の漫画は、そんな豊かな時代の象徴だった。

 1976年生まれの筆者にとって柴門ふみ原作のドラマは、バブル世代のお兄さん、お姉さんの文化という感じで、少し距離感のあるものだった。当時テレビ朝日系で放送されていた『柴門ふみセレクション』というオムニバスドラマで描かれた、思春期の男女の葛藤は高校生の時に観て、それなりに理解できたのだが、会社を舞台にしたラブストーリーは「大人になったらこんな感じかな?」と思いながら楽しんでいた。

 しかし、平成不況が長期化するにつれて、柴門ふみ作品を支えた豊かさを前提とした恋愛至上主義的な世界は、日本から失われていく。それを明確に感じたのが、1998年の春クールに放送されたドラマ『お仕事です!』(フジテレビ系)を観た時だ。本作は大手建設会社に務める女性が食器輸入会社を企業する仕事と恋愛を描いた作品だが、同時期に放送された『ショムニ』(フジテレビ系)と比べると、ズレてるなと思った。

 『ショムニ』は、大企業に務める庶務二課の女性社員たちのチームが、会社の男性社員や秘書課の女性社員たちと戦う姿を描いたドラマで、コミカルなやりとりの背後に見え隠れする切羽詰まったサバイバル感は『お仕事です!』よりも時代の気分を掴んでいた。

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