『アンという名の少女』に共感せずにいられない理由 “暗さ”を宿した新たなアンの主人公像

現代に生まれ変わった『アンという名の少女』

 この新生『赤毛のアン』が、より強い共感を得ずにはいられない作品になっているのは、エイミーベス・マクナルティ演じるアンに「元気な人参あたまの明るいアン」という従来の朗らかなイメージだけではない“暗さ”があるからだ。朗らかに笑う眼差しの奥に、深い孤独が見え隠れする。時折フラッシュバックする孤児院での壮絶ないじめや、子守をしていた一家での虐待に近い出来事といった、原作より容赦ない過去が深い陰影となり彼女の笑顔につきまとう。アンが口にする、ポジティブで強気な言葉のほとんどが、誰かに愛されたいという渇望と不安の裏返しである。

 「なんで私ばっかり!」と嘆くアンは、敵視していたギルバート(ルーカス・ジェイド・ズマン)やカスバード家の農場で働くジェリー(エイメリック・ジェット・モンタズ)も、父親が重い病気だったり、学校に行きたくてもいけなかったりと、様々な事情を抱えているのだということを目の当たりにする。孤児だから「放火しかねない」と当初警戒されていたアンが他所の家の火事の拡大を防ぎ、火事で一時的に家を失ったルビー(カイラ・マシューズ)を自分の部屋に招き、慰め優しくすることができるようになった第5話以降、アンは自分の不幸せから少し離れ、本当の意味で他者に思いを向けることができるようになってきた。そこに、マシュー(R・H・トムソン)とマリラ(ジェラルディン・ジェームズ)の愛に包まれることで得たアン自身の幸せがもたらした変化を見出すことができるのである。

 初回冒頭、風を切るように馬で疾走する姿からもわかるように、「そうさな」とはとても言わなさそうなアクティブなマシューには、従来の優しさだけでなく、無限の愛を持って道を切り拓き、一人の少女アンを救い出す強さが加わっている。そして、「母親」として時に葛藤し、常に最善の道を模索するマリラもまた、とても魅力的だ。牧師の古い価値観に縛られた説教を聞いて「結婚」という道を選ばなかった自身の人生を思い困惑したり、凸凹コンビの親友レイチェル(コリーン・コスロ)と丁々発止のやり取りを繰り広げる一方で、夫婦の仲睦まじい姿を目の当たりにしてちょっと目を泳がせたりするマリラの姿は、ひょっとしたらアン以上に目が離せない。「人生が違っていたら」と言う彼らには一体どんな過去があるのだろう。そういう大人たちの人生に思いを馳せずにはいられないのも、少女たちが憂鬱がる“大人”になった私たちの楽しみである。名残惜しいことに放送は残り2話となった。アンという名の少女をまだよく知らない人も知っている人も、ぜひ観てほしい傑作だ。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『アンという名の少女』
NHK総合にて、毎週日曜日23:00〜23:45放送
出演:エイミーベス・マクナルティ(上田真紗子)、ジェラルディン・ジェームズ(一柳みる)、R・H・トムソン(浦山迅)、ダリラ・ベラ(米倉希代子)、ルーカス・ジェイド・ズマン(金本涼輔)、コリーン・コスロ(堀越真己)
原作:L・M・モンゴメリ
脚本:モイラ・ウォリー・ベケット
演出:ポール・フォックス
Marvin Moore (c) 2017 Northwood Anne Inc.

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