柿澤勇人、挑戦し続ける役者道 『エール』山藤太郎として「長崎の鐘」を歌唱
あなたは覚えているだろうか。第8週「紺碧の空」で2回だけ登場した“あの男”のことを。
NHK連続テレビ小説『エール』第19週「鐘よ響け」で描かれるのは、登場人物それぞれの再生。戦争中に戦意高揚の音楽を世に送り出したことで自らを責め、音楽と向き合うことができなくなった裕一(窪田正孝)は劇作家・池田(北村有起哉)の熱意に打たれ、ふたたび作曲に取り掛かる。また、音(二階堂ふみ)も中断していた声楽のレッスンを再開し、古山家は明るさを取り戻していく。
そんなある日、裕一は自身が音楽を担当したラジオドラマ「鐘の鳴る丘」のモチーフとなった本の著者・永田(吉岡秀隆)に会うため長崎へ向かう。原爆投下により、自らも被爆しながら医師として人々の救護に当たった永田は裕一にある願いを託し、裕一はその想いを受けて曲を書く。
『エール』第19週ではサブタイトルの通り、2つの“鐘”が重要な要素となっている。ひとつは裕一が池田に請われ、そこに自らの希望を乗せて曲を書いた「鐘の鳴る丘」の“鐘”。そしてもうひとつが原爆で甚大な被害を受けた長崎の人々に寄せた「長崎の鐘」の“鐘”。後者は永田との出会いによって魂を揺さぶられた裕一が作曲した渾身の1曲である。
史実によると「長崎の鐘」は裕一のモデル・古関裕而の作曲、サトウハチローの作詞で1949年にレコード化。これを歌ったのが昭和の名歌手・藤山一郎だ。『エール』では山藤太郎という名で登場している。
第8週「紺碧の空」では爽やかに現れ、サラっと「生活のために歌っているんですよ」と語った山藤。そんな昭和の大スターを演じる柿澤勇人とはどんな俳優なのだろうか。
柿澤は現在33歳。サッカーに明け暮れていた高校時代に観劇した劇団四季の『ライオンキング』に感動し、学業と並行して専門学校の夜間部でダンスや歌、演技の基礎を学んで100倍以上の倍率を勝ち抜き、四季の研究所へ入所。
その後、念願だった『ライオンキング』のシンバや新作ミュージカル『春のめざめ』の主役・メリヒオール役などを演じるものの、2009年に四季を退団。大学に通うため約2年間の休養期間を経て2011年より本格的に俳優として復帰し、近年では舞台に加えドラマや映画、配信作品など活動の場を広げている。
何度か彼にインタビューさせてもらったり、トークイベントのゲストとして話を聞いたことがあるが、そのたびに「ずるいなあ」と思う。と言ってもまったく嫌な意味ではない。むしろその反対だ。