妻夫木聡の突出した巻き込まれ力 『危険なビーナス』は一風変わった兄妹の関係を描く 

『危険なビーナス』妻夫木聡の巻き込まれ力

「私、明人くんの妻です。はじめまして、お義兄さま」

 ある日突然、あなたの前に見知らぬ異性が現れたら? 抗いがたい魅力を持つその人物が親族の配偶者を名乗ったら、あなたはどんな言葉をかけるだろうか?

 手島伯朗(妻夫木聡)の前に現れた謎の美女、矢神楓(吉高由里子)。伯朗の異父弟・矢神明人(染谷将太)の妻を名乗る楓は、伯朗に明人が失踪したことを告げる。『危険なビーナス』(TBS系)第1話で、伯朗は楓を伴って矢神家の集まりに参加する。矢神家の当主・康治(栗原英雄)は末期がんで寝たきり状態にあり、遺産をめぐって康治の親族が話し合うことに。明人の代理で出席した楓に、先代・康之介(栗田芳宏)の子どもたちは疑いの目を向ける。

 矢神家の面々は、なにやらわけありな風情。故人である康之介は2度結婚しており、先妻との間に康治と波恵(戸田恵子)、後妻との間に牧雄(池内万作)、支倉祥子(安蘭けい)がいるほか、養子として勇磨(ディーン・フジオカ)と佐代(麻生祐未)がいる複雑な家庭環境だ。ちなみに伯朗の父は手島一清(R-指定)で、一清の死後に、妻の禎子(斉藤由貴)が康治と結婚して生まれたのが明人。家系図を見ただけで何かが起こりそうな矢神家に、伯朗と楓は乗り込んでいくが……。

 縁を切ったはずの矢神家を再訪する伯朗の「巻き込まれ力」は突出している。楓を一目見て「僕の好み、ど真ん中」と思ったことがきっかけだが、38歳・独身で「困っている女性にはめっぽう弱い」という伯朗のキャラは明らかに三枚目路線だ。下心が顔に出てしまうところや親族の空気に触れて及び腰になるなど、情けない部分もひっくるめて人間臭さ全開で演じている。

 対する楓は、自分のペースでぐいぐい伯朗を引っ張る。見計らったように伯朗の職場に姿を見せ、要点を手短かに伝える察しの良さと、コロコロと変わり、よく笑う表情の豊かさ。伯朗の叔父である兼岩憲三(小日向文世)と順子(坂井真紀)夫妻に、しれっとカマをかける大胆さを持ち合わせた楓は、だいぶ「巻き込み力」の高いキャラクターだ。

 「最強タッグの誕生ですね」と話す楓に、伯朗は「僕はそういう柄じゃない」と返す。楓と並ぶと、“締まらない”伯朗はビシっとして見え、性急な楓はいい塩梅に柔らかくなる。単純な男女の関係でもなく、兄妹の関係とも違う「腹違いの弟の嫁」という関係がそうさせるのだろうか? 「弟/夫の失踪」というシリアスな状況で、そこはかとなくユーモラスな空気が醸し出されるのは、妻夫木と吉高の持ち味だろう。あて書きを勘ぐってしまうくらい、演者とキャラの一致度はすこぶる高いと感じられた。

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