『E.T.』が“不朽の名作”と呼ばれる理由 コロナ禍だからこそ感じられる新鮮な響きも

 E.T.が何度も発する“Home(ウチ)”という言葉も、このコロナ禍に観るからこそ新鮮な響きを伴って感じられることがある。Homeに帰ることをひたすら望むE.T.が、Homeから気軽に出かけられない我々に「帰れる場所が当たり前にあること」のありがたみを教えてくれているようにも思える。

 せっかく仲良くなれた親友が、ここではないどこかに帰るべき場所があり、それを望んでいると知ったエリオットは、その事実をすんなり受け入れられたのだろうか。そこに葛藤があったのか否かはっきりとはわからないくらいに、エリオットは自然とE.T.が宇宙船と交信するための通信機器作りに協力する。

 NASAの人間に追われながらも、ある意味何の義理もないE.T.のために走り出さずにはいられない。気がつけば自然と手を差し伸べている、少しでも役に立ちたい、相手の希望を叶えたいと無心で自転車を漕ぎ続けた結果、あの少年たちが空を飛ぶシーンが待ち受けているのだ。「空を飛びたい」とは幼少期誰もが一度は願ったことのある夢の一つだと思うが、自分のためではない誰かのために必死で駆け抜けた結果にそれが叶うのもまた示唆に富んでいる。

 ラストには、エリオットがさらにもう一段人間的な成長を遂げるシーンが描かれる。どんなに心通い合う相手だとしても、それぞれに「居るべき場所」や「待っている人」がいて、四六時中一緒にいられるわけではないことを理解した上で、距離が離れていても互いに心で繋がっていられることをラストシーンで自然と受け入れるのだ。

 人類がこれまでの活動を一旦ストップさせることを余儀なくされ、ソーシャルディスタンスによって他人どころか自分以外の全ての人との距離が保たれてしまっている今、“未知との遭遇”がなかなか起こりづらい環境下だからこそ見えてくる、本作が不朽の名作と言われる所以を確かめてみてほしい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
『E.T.』
日本テレビ系にて、10月2日(金)21:00〜22:54放送
監督・製作:スティーヴン・スピルバーグ
製作:キャスリーン・ケネディ
出演:ディー・ウォーレス、ヘンリー・トーマス、ロバート・マクノートン、ドリュー・バリモア、ピーター・コヨーテ
(c)1982 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

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