三浦春馬さんでなければ成立しなかった慶太の魅力 『カネ恋』が描く“ほころび”の普遍性
きっちり整合性のとれた人生を送っている人なんてこの世に何人いるだろう。誰の心にも「ほころび」はある。わたしの中にも、そしてあなたの中にも。
現在放送中の『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)。中堅おもちゃメーカー経理部勤務の九鬼玲子(松岡茉優)は日々節約を貫き、生活の中で小さな喜びを見つけることに長けた“清貧女子”。そんな玲子が所属する経理部に、ある日突然社長の息子・猿渡慶太(三浦春馬)が配属される。慶太の目に余る浪費グセに業を煮やした社長(草刈正雄)が、息子の金遣いを叩き直そうと転属を命じたのだ。慶太の教育係を任された玲子は彼と行動を共にするのだが、ふたりの金銭感覚の違いは果てしなくーー。
番宣を見た時から第1話の終盤まで、これはよくある恋愛ドラマだと思っていた。玲子と慶太が互いの価値観のぶつかり合いを経ていつしか惹かれ合い、最終的には結ばれる少女漫画的展開だろうと。が、甘かった。本作はそんなありきたりな物語ではない。そこにあるのは「ほころび」というキーワードだ。
慶太の「ほころび」、それは母親の溺愛と父親からの否定で生まれた「浪費グセ」。海外出張で700万以上を使い、ランチには3種類のお弁当をサクっと購入。もちろんコーヒーは“甘いの、冷たいの、温かいの”のすべてが必要で、洋服も値段を見ずにバンバン買う。給料(38万円!)のほとんどを1週間以内に使い切り、支払いはすべてブラックカードだ。
そして玲子。無駄を嫌い、有名洋菓子店でクッキー1枚のみ購入するような彼女の「ほころび」はなんと「貢ぎ」。15年間片思いをしているファイナンシャルプランナーの早乙女(三浦翔平)のマネー講座に通うたび、高級ショコラ、それに合うワイン、二日酔い防止の薬にワイシャツ、帽子とガンガン貢ぐ。
おもしろいのは玲子が慶太の「ほころび」には冷静に斬り込めるのに、自分のそれには無自覚なところだ。彼女の中でアンティークショップの豆皿を買うのに1年迷う自分と、片思いの相手に過剰に貢ぐ行為は矛盾していない。なぜなら「彼の笑顔はプライスレス」だから。
早乙女に対しアクションを起こさない玲子に向かって「いい加減現実を見ろ」と諭す慶太に彼女は静かに答える。「付き合いたいとかデートしたいとか、そんな大それたこと望んでいません。私はただ早乙女さんを遠くから見て愛でているだけで良かったのに」と。結局、玲子も慶太も根の部分は同じなのだ。つまり埋められない心のスキマを慶太は「モノ」で、玲子は「他者」で補おうとしている。ふたりとも、みずからの心にどうしてスキマができたのか、それを直視しようとはせずに。
そんなふたりに対峙するよう存在するのが、彼らと同じおもちゃ会社の営業マン・板垣(北村匠海)と慶太の元カノ・まりあ(星蘭ひとみ)。板垣は実家が経営する工場の業績悪化もあり、付き合う相手の「コスパ」を最優先で考える。その人と老後に必要な2500万円を貯めたいと思えるかが彼の恋愛の最優先事項だ。また、まりあもベンチャー起業家の山鹿(梶裕貴)に嫌われないよう「彼にフィットする自分」を演じてしまう。このふたりもこと恋愛に関して「ほころび」を抱えて生きている。
第3話では「ほころび」を縫い合わせようと登場人物それぞれが行動を起こし、新たな展開が生まれる。本作のテーマは「価値観の違いを乗り越えたふたりが恋に落ちる」ことではなく「それぞれが内包する問題=ほころびを自覚し新たな一歩を踏み出す」ことなのだろう。これは玲子が、そして慶太がお金や恋を媒介に自分と向き合う物語なのだ。
最後になったが、本作で慶太を演じる三浦春馬さんの輝きについて触れておきたい。