こんな麻生久美子が見たかった! “特別”ではないから輝く『MIU404』桔梗隊長の強さ

“特別”ではないから輝く桔梗隊長の強さ

 麻生久美子はつねに生活者のたくましさを演じている。麻生が俳優デビューして今年2020年で25年。デビューのきっかけは「全国女子高生制服コレクション」というアイドル的なものながら、その後の活躍はめざましく、今村昌平監督の『カンゾー先生』(1998年)でただ者じゃない存在感を発揮し、相米慎二、黒沢清、行定勲、中田秀夫など錚々たる監督作に出演、気鋭の映画俳優としてみるみる確かな地位を築いた。やがて、宮藤官九郎や三木聡による喜劇的な作品でも活躍するようになって表現の幅が広がっていく。

 映画『グッモーエビアン!』(2012年)では大泉洋と夫婦役で、かつては一緒にパンクバンドをやっていた設定。夫がいなくなっても娘をしっかり育てている。こういう雑草のようにたくましい役が麻生は似合う。連続ドラマ『泣くな。はらちゃん』(日本テレビ系)では、地方都市で、漫画だけを愛し、他者とコミュニケーションをとらずに「私のことはほっといて」と自虐的な主人公を演じたが、麻生がやると過剰に弱々しかったり辛気臭かったりしない。自分だけの夢を見ることで生き抜く生命力が輝いている。

 想像でしかないが、撮影現場でも打たれ強そうというか、面倒くさいことを言わず、自意識過剰に振る舞わず、監督の欲しいイメージに的確に応えられる俳優なのではないだろうか。声は高すぎず低すぎず、明瞭過ぎず、曖昧過ぎず、透明感があって永遠の少女のような面差しをしているが、決して儚くない。透け感があって丈夫なリネンのような手触りの人。

 でしゃばらないが、依存もしない。男性から見ると、自分の好きな世界(サブカルぽいもの)も理解してくれて、でも、決してしゃしゃり出てこない理想のタイプ。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(の田畑政治(阿部サダヲ)の奥さん役など良い例かと思う(あくまで想像です)。

 実際、麻生のこれまでの出演作は男性作家、演出家の作品が多い。そもそも映画やドラマや舞台の世界は男性作家が多いのが現実であって、女性が描く女性の物語は案外多くない。

 そんなところに『MIU404』である。これはプロデューサー、脚本家、チーフ演出家が全員女性の珍しいドラマ。そこでの麻生久美子の役・桔梗は、じつにさばさばと仕事をしていて、過剰に男性を支えているふうでもない。仕事と関係ない飲食店のふつうそうな男性に癒やされて結婚し子供をつくり、亡くなった夫をいつまでも大切に想い、密かに見つめている志摩の気持ちなどお構いなし。

 こういう描写が、男性のドリームではない、女性のリアルを体現しているようで、こういう麻生久美子が見たかったと嬉しくなった。美人だからいい役をもらえているわけではない。彼女は信頼に足る能力が備わっている。そして、彼女の向こうに、世の中で同じようにがんばっている女性たちが透けて見えるのである。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/

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