こんな麻生久美子が見たかった! “特別”ではないから輝く『MIU404』桔梗隊長の強さ

“特別”ではないから輝く桔梗隊長の強さ

 『MIU404』(TBS系)で麻生久美子が機動捜査隊(第1と第4)の隊長・桔梗ゆづるを演じている姿を見て、彼女の代表作『時効警察』シリーズ(テレビ朝日系)から隔世の感を覚えた。ちょうど昨年、12年ぶりに復活していたが、『時効警察』で麻生が演じていたのは交通課の巡査部長・三日月しずか(復活作『時効警察はじめました』では交通課長補佐)。彼女は、オダギリジョー演じる霧山を好きで彼と一緒に捜査できることを喜びにしている乙女なところがある。でも彼女特有の勘の良さで役に立つ。

 一方、桔梗ゆづる警視は隊長という頼られる側である。何かと面倒な組織のルールをうまいことかいくぐって、事件解決に対しても、働く者としての待遇改善に対しても、力を尽くす実直な人物である。シングルマザーでもあり、仕事と子育ても両立している。三日月から桔梗へ。麻生久美子の役柄の変化は、年齢の変化に限らず、女性の働き方自体の変化と重なって見える。

 『MIU404』では未だ女性がリーダーであることが世間的には当たり前には受け取られていない。第1話のしょっぱなから、ネットに流れた桔梗の会見を見て人々は「美人すぎる」と注目、それを部下の志摩(星野源)にからかわれると桔梗は「顔で隊長になってない」と突っぱねる。

 第10話でもそれはさらに面倒くさいことになる。警察が悪事を隠蔽しているというフェイクニュースが広がって、第4機捜は「謎の4機捜」「秘密部隊じゃないか説」でもちきりになり、矢面に立たされた桔梗は“女”を使って出世したという、あらぬ噂が拡散してしまう。

 桔梗が古臭い男社会のなかで懸命に働いてきた苦労を他人は理解しない。なまじっか美人なので余計である。美人は実力ではなく顔で出世するという考え方もひとつの差別なのだ。

 とりわけ、警察は男社会というイメージが強いが、美人かつ実力のある女性が活躍する刑事ドラマもいくつか存在する。主なものを振り返ると、まず、『踊る大捜査線』(フジテレビ系)シリーズが浮かぶ。映画版『踊る大捜査線 THE MOVIE2』(2003年)で初登場した沖田管理官(真矢みき)は女性初の警視正という設定。これに端を発して、以後、フジテレビは『アンフェア』(2006年)で捜査一課殺人犯捜査四係主任・雪平(篠原涼子)、『BOSS』(2009年)では特別犯罪対策室室長・捜査一課の係長待遇・大澤(天海祐希)、『ストロベリーナイト』(2010年)は警視庁捜査一課殺人犯捜査十係主任 ・姫川(竹内結子)などを生み出した。

 沖田管理官は女性初という映えある役割ながら、主人公の青島(織田裕二)と敵対する側にまわっていたが、主役じゃないから仕方ない。一方、雪平、姫川、大澤は、主人公なので部下に慕われ、支えられ、正義のために闘い続ける。さらに雪平と姫川は暗い過去をもっているという設定付き。

 『MIU404』と同じTBSでは『ケイゾク』(1999年)の柴田純(中谷美紀)。最初は新人刑事だったが、シリーズごとに出世して、特別編では署長、映画では係長、『SICK'S〜内閣情報調査室特務事項専従係事件簿〜』(Paravi)では警視総監にまで上り詰めた。彼女は東大出身のキャリアで推理力は抜群だが。身体能力はなく、どんくさい。

 エンタメ作品だから彼女たちには派手な設定盛り盛りである。それに比べると『MIU404』の桔梗は主人公ではないというのもあるが、天才やトラウマ設定はなく派手な見せ場もさほどない。だが、地道な努力とそもそもの能力の高さでここまでの地位につけたのは並大抵の苦労ではなかっただろうと思わせることはセリフの端々からわかる。そのうえシングルマザーとして息子を育てているのだから相当頑張っている。そして、誰もが彼女のように頑張れないこともわかっていて、だからこそ苦労して報われない女性たちを放っておけない。闇カジノを告発したため命を狙われている羽野麦(黒川智花)に手をさしのべ家に住まわせ、ひたすら彼女に寄り添うことで、立ち直る勇気をもたらす。

 麻生久美子演じる桔梗はじつに頼もしい存在だ。いわゆる女性がリーダーを演じるときスター性のある俳優が主人公として演じることが多いなかで、麻生がバイプレーヤーとして演じることで、女性のリーダーは特別な存在ではないことを物語る。

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