『3年A組』柊を演じた菅田将暉が『MIU404』久住を演じる意義 “正義の味方”はどこにいる?
第1話は「見つからない」おばあちゃんを探す回でもあった。第3話における学校に「存在しない生徒」とされた学生たち、第5話における「目につかないところに追いやられている」外国人労働者たち。第6話における、10年間見つけられなかった男。存在を隠され続けていた羽野麦。久住に傷つけられた無数の「見えていない被害者」。このドラマにおいて「Not found」を示すものはあまりに多い。
でも、「見つからない」だけ、「見て見ないふり」をされているだけ、「存在しない」ことにされているだけで、彼らはちゃんといる。人間として、いろんな感情を抱えながら、もがきながら、力強く必死で生きている。
「俺たち警察は弱い者を守りながら、どこまでも正しく清廉潔白でいなくちゃならない」と言う志摩。「正義ってすっげー弱いから、大切にしてみんなで応援しないと、消えてなくなっちまうのかもしれないな」と言う伊吹。そして、実際には起きていない爆発現場に向かって疾走する伊吹と志摩を見やりながら「正義の味方はつらいのう」と言う久住。
フェイク動画とネットによる誹謗中傷の悪を真っ向から訴える最終回が印象的だった『3年A組』における、最後には逮捕される正義のヒーロー・柊を演じた菅田将暉が、フェイク動画とSNSを使って東京中をパニックに陥らせる役を演じ、「正義の味方はつらい」と言うことに、本来全く関連性はないことではあるが、意味を見出さずにはいられない。
現在のテレビドラマにおいて、もう正攻法では「正義の味方」は描けないのかもしれない。SNSの罵詈雑言が集積され怪物となり、今日も誰かを追い詰めているこの世界において、表は簡単に裏になり、裏は簡単に表に転じる。確かな真実などどこにもない。「存在しないテロ」に翻弄される東京、正義の味方が悪者として糾弾される東京は、「私たちの日常によく似た架空の東京の姿」でなく、いつ「今日の東京の姿」に転じてもおかしくないのである。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/