劇場版『Fate/stay night [HF]』が問いかける“罪”との向き合い方 映画独自のアレンジの妙

劇場版『Fate/stay night [HF]』が問いかける“罪”との向き合い方 映画独自のアレンジの妙

 あなたは犯罪者を愛する覚悟があるか。

 『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』(以下、『HF』)は、そんな答えにくい問いを突きつける作品だ。

  犯罪者をかばうことは、今の社会ではより厳しい目で見られるようになっている。犯罪者は秩序をおびやかす存在であり、それをかばうなど政治的に誤っているとされるようになった。

 『HF』が発する上記の問いは歪んだものだ。にもかかわらず、多くの人間を殺したヒロインを愛すると決めた主人公・衛宮士郎は、正義に味方を目指していた頃よりも、真っ当な人間に見えるのはなぜだろうか。こうした既存の価値の転覆を幾重にも仕掛けてくるのだ。

原作ゲームの構成について

 『Fate/Stay night』の原作は主要3ルートから成るビジュアルノベルゲームだ。ゲームのプレイヤーが選ぶシナリオ上の選択肢によって物語が分岐し、異なる物語をプレイできる。多くのヒロインからプレイヤー毎の好みを選択し、それぞれの楽しみを見出すという目的で使われることが多いゲームシステムだが、本作の特徴は攻略するルートの順番が固定されている点だ。第一のルート「Fate」ルートを攻略しないと第二のルート「Unlimited Blade Works」(以下、「UBW」)をプレイできない。そして「UBW」をクリアすると、今回映画化された第三のルート「Heaven’s Feel」をプレイできるようになる。分岐する物語という、本来なら並列して存在し得ないものを、あたかも「三幕構成」のように作っている点が本作を特異なものにしている。原作者・那須きのこは、本作のパンフレットで執筆当時の心境をこのように語っている。

「原作で描かれる三つのルートのうち[Fate]は誰もが思い描くボーイミーツガ
ール。[UBW]は理想を追いかける話。どう生きると人生は輝かしいのか、気持
ちいいのか、という点をメインにしていました。そのふたつを書いたあと、そ
うは言っても僕らは人間だから、地に足をつけて生きていかないといけないよ
ね、ということで[HF]を書きました」(『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」III.spring song』公式パンフレット、P8)

 先に書いた『HF』の問いかけは、正義の味方になるという理想を追い求める格好良さを描いた後だからこそ、一層切実なものとなる。このプレイの順番が仮にランダムであったら、作り手の意図は十分に伝わらないものになっていただろう。

理想を捨てることもまた尊い

 主人公・衛宮士郎は瀕死の重傷を負った火災事故から、魔術師・衛宮切継に助けられ、正義の味方に憧れるようになる。多数の生存のためには身近なものであろうと少数を切り捨てるのが父・切嗣の正義だった。その先には数多の殺戮があることを知りながら、それでも理想の正義を求めて邁進する姿が大二のルート『UBW』では描かれる。

 しかし、『HF』ではその同じ主人公に全く正反対の決断をさせる。桜という一人の少女のために己の理想を捨て、愛する一人の女性のためだけに戦うことを選ぶ。物語当初に掲げた目標を主人公の理想を、同じ主人公に捨てさせるという価値の転覆が起きる。

 この転覆に大きな意味があるのは、衛宮士郎の正義への憧憬は、半ば脅迫観念にも似た感情で描かれているからだ。父の目指した正義を追求しすぎるあまりに歪な存在と描かれていた主人公が、初めて身近な人を選ぶという、人間らしさを見せるのが『HF』の物語であり、だからこそ、相手が悪であるにもかかわらず、本作で主人公はこれまで以上に真っ当な人間に見える。

 理想を追いかけることの賛美から、理想を捨てることへの賛美へ。これが『HF』という物語が仕掛ける最大の反転だ。奈須きのこは『HF』という物語の意義についてこう語る。

「どれだけ輝いて見せた人でも、やがて仕事をして、いつしか家庭を持って、奥さんと一緒に家を守りながら、当たり前だけどたいへんな子育てに奔走する。現実は時に理想を捨てさせる。士郎もゲームのプレイヤーと同じ人間だから、それも書かなくちゃ嘘になる、という気持ちが当時は大きかったんだと思います。だけど、それを捨てることもまた、すごく尊いことなんだよと」(『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」III.spring song』公式パンフレット、P8)

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