『2分の1の魔法』が教えてくれる、受け継がれる意志の重要性 “夢の継承”はピクサーにも通じる?

『2分の1の魔法』が伝える“夢の継承”

 いまやディズニーとともに世界のトップに立つピクサー・アニメーション。そこで長く大事にされてきたのは、CGアニメーションを駆使しながら、ディズニー作品とは違ったものを観客に提供するという理念だった。

 そのピクサーが手がけた『2分の1の魔法』は、あえてディズニー・アニメーションを思い起こさせるような、妖精たちが暮らす不思議な世界を舞台に、少年たちの冒険と魔法を描くアドベンチャー作品だ。しかし本作がユニークなのは、そんなファンタジックな世界を舞台にしながら、その上でピクサーらしい現実的な物語に仕上げているというところだ。ここでは、そんな本作『2分の1の魔法』が描いたものを、できる限り深く読みとっていきたい。

 これまでピクサーは、多くの作品でキャラクターたちが自分の課題を乗り越え生きる実感や意味を見いだす様を描いてきた。そこにあるのは、われわれ観客を投影したような等身大の人間の姿だ。たとえそれが、スーパーヒーローやモーターレースの王者など突出した能力や地位を持つキャラクターであっても、彼らに与えられるのは、きわめて現実的で多くの人に当てはまる問題である。

 本作は、そんなピクサーの姿勢をそのまま象徴するようなものとなっている。妖精の世界とはいっても、われわれの暮らす現代の社会に近い場所として描かれるのだ。かつて魔法や奇跡の力を駆使していた妖精や幻獣たちは、文明の発達とともにその力を忘れ去ってしまう。そしてそこは、ビル群や住宅街が広がり、車や列車が走る、われわれの世界とそれほど変わらない風景に埋もれてしまったのだ。ドラゴンは家で飼うペットとなり、ケンタウロスは健脚を使わず車で移動し、ユニペグ(翼のあるユニコーン)は野良犬のように往来で残飯の奪い合いをしているのだ。

 このように、夢の世界なのに夢が失われてしまった世界で、主人公であるエルフの少年・イアンは車の運転の練習がうまくいかなかったり、友人を作ることに苦労していたりなど、きわめて普通の学生として社会のなかで居場所を作ろうと奮闘している。対して、イアンの兄バーリーは、そんな世界であっても夢見る子どもの心を失わずに、いまではボードゲームやカードゲームなどのなかにしか存在しない魔法の知識に夢中になっている。そんな、高校を卒業しても自宅で空想の世界に遊んでいるバーリーは、イアンにとってお手本にしたくない兄なのだ。

 彼らの父親は、イアンが物心つく前に他界していて、いまは優しい母親と3人で暮らしている。この境遇は、本作の監督であるダン・スキャンロンの経験を基にしているのだという。スキャンロン監督もまた、劇中のイアンのように、父親が遺した短い音声を聴き、記憶のない父親に思いを馳せていたのだという。また、イアンの母親にケンタウロスで警察官の恋人ができているというのは、やけにリアリティがある部分である。

 物語が動き出すのは、父親が亡くなる前、兄弟に魔法の杖と手紙をプレゼントしていたことが分かる場面からだ。手紙には、24時間だけ死者を甦らせる魔法の儀式のやり方が書かれている。父親もまた、魔法の力を信じるような、夢見がちな人物だったのだ。

 そしてイアンには彼自身も知らなかった、秘められた魔法の才能があり、父親を甦らせることに成功する。ただし、つま先から腰のあたりまで。つまり上半身がなく、ほとんどコミュニケーションをとれない“2分の1”の状態で父親は現世に現れてしまったのだ。そんな下半身だけの父親を連れて、兄弟は復活の儀式を完成させるのに必要な“不死鳥の石”を求めて、冒険の旅に出るのだった……。

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