賀来賢人、“倍返し”の役者道 『今日俺』『半沢直樹』正反対の作品で示した高い演技力

賀来賢人、“倍返し”の役者道

 20%超えの高視聴率、SNSでの世界トレンド入りなど絶好調のドラマ『半沢直樹』(TBS系)。第4話までの前半戦では歌舞伎俳優による“顔芸合戦”が話題を呼んだが、他作品で彼らに負けない“顔芸”を繰り広げながら、『半沢直樹』では抑えた芝居で逆に存在感を見せつけた俳優がいる。賀来賢人だ。

 賀来が演じるのは半沢直樹(堺雅人)の出向先、東京セントラル証券の社員・森山雅弘。銀行からの出向組が幅を利かせる中、プロパーとして思うような仕事ができず腐っていたところ、半沢との出会いによって次第に成長する青年という役どころである。

 森山は前半戦のキーとなるIT企業、スパイラルの創業社長・瀬名(尾上松也)の中学時代の同級生という設定で、ストーリーにも大きな影響を与えるキャラクター。10代の頃、森山が瀬名からもらった万年筆も作中で重要なアイテムとなっていた。

 今季の『半沢直樹』には歌舞伎チームを筆頭に、舞台で活躍する中堅~ベテラン俳優が多くキャスティングされており、キャラが濃すぎるプレイヤーが渋滞気味だ。そんな手練れの中で鬱屈したロスジェネ世代の悲哀と心に秘めた情熱とをストレートに演じた賀来の演技は高い評価を受けた。

 第4話で半沢の命を受けた森山は、電脳雑技集団のトップが隠蔽した裏の決算書を発見し、粉飾決算の証拠をつかむ。事態の終息後、親友・瀬名からスパイラルの財務担当として一緒に働かないかと誘われる森山だが、今の仕事が面白くなってきたからとそれを固辞し、それまで不満ばかりを語っていた東京セントラル証券への残留を決意する。

 7年前の『半沢直樹』と2020年の『半沢直樹』の大きな違い。それは半沢がひとつ下、ロスジェネ世代の森山に未来を“託した”ことだ。半沢は森山に仕事上の信念を静かに、しかし熱く説く。「正しいことを正しいと言えること」「世間の常識と組織の常識が一致していること」「ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価されること」。その言葉を聞いた森山は、それまでのモヤモヤを脱ぎ捨て“半沢イズム”を引き継ぐことで、証券の世界における自分の居場所を見つけて前を向くのである。

『今日から俺は!!劇場版』(c)西森博之/小学館 (c)2020「今日から俺は!!劇場版」製作委員会

 さて、『半沢直樹』ではキャラが濃すぎる先輩たちの中でストレートな芝居を見せた賀来賢人だが、公開中の映画『今日から俺は!!劇場版』では2018年の同作ドラマに引き続き、ツッパリの三橋として顔芸どころか全身でおバカなギャグを披露するなどデフォルメされた演技で観客の笑いを誘う。

 鬱屈を抱えた証券マンと80年代をほうふつとさせる高2のおバカなツッパリ。賀来のその大きすぎる演技の振り幅はどこから来るのだろうか。

 じつは賀来賢人、デビューは2008年とキャリアは長いが、プライムタイムドラマでの主演は『今日から俺は!!』(日本テレビ系)の三橋貴志役が初。それまで出演した多くのTVドラマでは助演にまわることがほとんどで、自身の立ち位置に悩んだこともあったという。

 というのも、同世代には佐藤健、松坂桃李、瀬戸康史、窪田正孝、岡田将生と正統派のイケメンで、芝居も巧い俳優たちがずらっと名を連ねており、その中で頭角を現すのは至難の業。

 そんな迷いの中、ある人物の言葉が彼の意識を変える。その人物とは2008年の映画『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』で賀来を起用し、2011年のドラマ『勇者ヨシヒコと魔王の城』(テレビ東京系)でも脚本と監督を担当した福田雄一。この作品で山田孝之やムロツヨシといった怪物たちに揉まれた賀来は、のちに福田から「20代で1番コメディができる俳優になったらいい」と言われ、そこにひとつの照準をあてる。

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