生田斗真×宮藤官九郎×水田伸生による問題作 『JOKE~2022パニック配信!』が描いた“言葉の暴力性”
ここに見られるように、本作は「事件が発生し、解決する」ことに重点を置いていない。むしろ、早々に「誘拐されたはずの家族とメッセージのやり取りができ、沢井が困惑する」「犯人に明確な要求が見られない」といったノイズを入れ、従来のサスペンスに向かう推進力を意図的に削いでいく。
犯人が「コンビニに車で突っ込む」という脅し文句と共に送り付けてきたショッキングな映像も、フェイク動画だったことが判明。さらに、何度もやってくる宅配業者たちが、物語の流れを寸断する。途中に乱入してくる警察官はミーハー心満載で、視聴者の反感を買いそうなテンションに設計されている。
こちらも「沢井のアカウントで何者かが勝手に大量注文していた」、つまり「個人情報の流出」、さらには「(恐らく野次馬の)複数人が通報した」という社会問題的な要素があるのだが(犯人が沢井の電話番号を知っているという点も含め)、勝手に頼まれたのはタピオカミルクティーと歯ブラシであり、危機感が薄い。犯人の目的や真意がわからないまま、物事はいつの間にかうやむやになってしまう。その代わりに観る者の中でむくむくと立ち上がってくるのは、「この作品は、我々をどうしたいのだろう?」という疑問。まるでこのドラマ自体が悪い冗談(JOKE)のような、何とも言えない気味悪さが漂い始めるのだ。
「伏線の回収」というカタルシスは後半に用意されているものの、それを軽く覆いつくすような後味の悪さ。生田は「社会風刺とブラックな部分がある」と語っているが、その言葉通り、観る者を暗澹たる気持ちにさせる問題作になっている。
45分を通して幾度も描かれるのは、「言葉の暴力性」だ。冒頭から怒涛の勢いで向けられる、匿名の罵詈雑言。そして、詳しくは書かないが、後々明かされる衝撃的な“事実”も、こちらに起因する。沢井にぞんざいな物言いをする他人も、彼のピンチを見て「面白くなってきた」とあざ笑う視聴者も、正直なところ人ひとりの人生を消費しているだけ。仮に彼が死んでしまおうが、JOKEで済ませてしまう――。ステイホームで部屋に引きこもったところで、インターネットにつないでいる限り他者からの攻撃にさらされる。その残酷な真実は、外出自粛を経験した私たちが誰より知っていることでもあろう。
そしてまた、沢井自身もテレビに映る相方をディスり(もちろん、複雑な感情があればこそなのだが)、その様子を配信する。JOKEとの大喜利合戦ではウケを狙うために過激なジョークを飛ばし、視聴数を稼ぐために犯人に乗っかろうとし、自分の立場を危ぶめる。彼自身被害者ではあるのだが、清廉潔白な人物ではない部分も、本作の苦みを強めている。
インターネットが発達し、個々人の「発信力」と「発言力」が強まった今や、誰もが簡単に他者を破滅に追いやれるようになった。私たちが使う“言葉”というツールは、個人の感覚いかんで一種にして凶器と化し、そこには何の資格もいらない。沢井も、彼に群がる他者も、誘爆、誤爆、自爆……様々な危険性とともに生きている。
人と会う機会が激減した私たちは、今こそ自分自身が持つ「言葉の力」を再認識するべきではないのか――。エグ味に満ちた『JOKE~2022パニック配信!』の奥には、そんな切なる想いが潜んでいるような気がしてならない。
■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter
■放送情報
『JOKE〜2022パニック配信!』
NHK総合にて、8月10日(月)22:00〜22:45放送
作:宮藤官九郎
出演:生田斗真、柄本時生、松本まりか、岡部たかし、田村健太郎、一色洋平(声の出演)、佐々木史帆(声の出演)
制作統括:訓覇圭(NHK)、仲野尚之(アックスオン)、後藤高久(NHKエンタープライズ)
演出:水田伸生(アックスオン)
写真提供=NHK