生田斗真×宮藤官九郎×水田伸生による問題作 『JOKE~2022パニック配信!』が描いた“言葉の暴力性”

 新型コロナウイルスの影響で、密閉、密集、密接の“3密”を避けた新たな映画や番組制作が模索されている昨今。林遣都が1人3役に扮した『世界は3で出来ている』(フジテレビ系)や広瀬アリス・すず姉妹が共演した『リモートドラマ Living』(NHK)、千葉雄大が宇宙飛行士に扮した『40万キロかなたの恋』(テレビ東京系)など、現状に即したアイデア性あふれるドラマが次々と生まれてきた。

 8月10日にNHKで放送された特別ドラマ『JOKE~2022パニック配信!』も、そのような系譜にある1本。生田斗真演じる芸人が自宅で生配信を行い、45分間ほぼ1人でしゃべり続ける、という設定にすることで“3密”を回避している。アイデア自体は昨年からあったというが、まさに「コロナ禍だからこそ実現した」作品といえよう。

 ただ、脚本を手掛けたのは、あの宮藤官九郎。そして、演出は『Mother』(日本テレビ系)や『Woman』(日本テレビ系)の水田伸生。人気ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)でもタッグを組んだ2人が、「コロナ禍でできることをやった」だけにとどまり、何も仕掛けないはずがない。事実、その中身は毒だらけのシニカルなストーリーになっている。

 舞台は、ポストコロナの近未来。漫才コンビ「俺んち」の沢井(生田斗真)は不祥事を起こし、自宅に引きこもっていた。ただ、AIロボット「マイルス」が家事や雑務を引き受けてくれ、“大喜利機能”を搭載したAIロボット「JOKE」を相手にライブ配信を行えば、生活は快適で自己顕示欲も満たされる。悠々自適なステイホーム期間を過ごしていた沢井だったが、ライブ配信中に「家族を誘拐した」という男から電話がかかってきたことから、窮地に陥る……。

 「生放送中に事件が起こる」という設定は、韓国で多数の映画賞に輝いた『テロ,ライブ』や、ジョディ・フォスターが監督を務めた『マネー・モンスター』などにも見られたもの。ただ、これらはテレビ局やラジオ局が舞台になっているもので、個人発信にまで落ちてきたところに、現代的なエッセンスを感じさせる。

 また、“犯人”と思しき人物が「声だけ」という部分に、日本でも大いに話題を集めた映画『THE GUILTY ギルティ』を想起する方もいるかもしれない。しかし、ここからスリリングなサスペンスが幕を開けるのか?と期待すると、大いなる肩透かしを食らうだろう。もちろんスリルはあるのだが、前述したように『JOKE~2022パニック配信!』はより毒素が強く、現代の日本が抱える様々な問題、或いはトレンドにある事柄に唾を吐きかけるようなテンションで進んでいく。

 まずは、沢井がライブ配信を開始するところからみていこう。生配信を始めた途端に、「馬鹿」「パクリ野郎」「クズ」といった誹謗中傷コメントが、多数寄せられる。彼の出した自伝の帯に書かれていた言葉が、盗作だというのだ。沢井は「全く知らなかった」と語るが、コメント主たちはさらなる罵声を浴びせてくるだけ。「嫌なら見なきゃいい」「外野は黙ってろよ」と反論しても、粘着し続けるのだ。

 恐ろしいのは、彼が引きこもるきっかけになったこの事件が、昨日や今日の出来事ではないということ。何年も前の事柄にもかかわらず、いまだに執拗にたたき続けられるおぞましさは、SNSでの誹謗中傷が加速し続ける現代において、下手なホラーよりも肝が冷える。

 つい先日も話題になったが、こうした「姿の見えない悪意」は、相手を明確に傷つけながらも、犯罪として裁くことが非常に困難だ。『JOKE~2022パニック配信!』は、冒頭から「人間の闇」を明確に提示し、疾走感ある物語を始めようとしない。劇場型犯罪を起こす特定の犯人以前に、この世に悪意があふれていることを示してしまうのだ。つまり、この犯人との対決を制したところで、沢田に降りかかる火の粉は消えないということ。なんと絶望的なプロローグだろうか。

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