学園モノの主戦場はドラマから映画へ? 『弱虫ペダル』『ふりふら』などに共通する“非教室性”
その『今日から俺は!!』は現在公開中の劇場版が大ヒットしているとはいえ、もはや“福田雄一作品”というオールスター性を持ったひとつの新ジャンルとして確立しているから例外ではあるが、この夏に映画館を彩る他の学園モノ作品は、例によって“非教室性”作品ばかりだ。現在公開中の『#ハンド全力』は、数年前に“こども店長”としてブレイクした加藤清史郎と『天気の子』で主人公の声を担当した醍醐虎汰朗、そして鈴木福といった実績十分のティーンキャストが揃い、SNSや被災地の復興というテーマをハンドボールを軸に描き出す。
また人気漫画をKing & Princeの永瀬廉、伊藤健太郎、橋本環奈といったスター性抜群のキャストで実写化した『弱虫ペダル』もそのひとつ。この2作品は学校の部活動を描いているという点で共通し、『ちはやふる』や『チア☆ダン』などのヒット作に代表される“非教室性”学園モノの最もスタンダードな形を踏襲しているといえよう。
また“部活”と双璧を成す要素である“恋愛”を軸にした作品では、咲坂伊緒の同名コミックを浜辺美波や北村匠海らを迎えて実写化した『思い、思われ、ふり、ふられ』がある。2020年代最初の“キラキラ映画”として重要な作品といえると同時に、同一原作を実写とアニメの両方でほぼ同タイミングで映像化するプロジェクトという点でも期待が持てる一本だ。そして、ふくだももこの短編小説を原作にした松本穂香主演の『君が世界のはじまり』は、高校時代というモラトリアムをブルーハーツの名曲とともに描く、懐かしさとほろ苦さを携えた青春群像。こうしたタイプも“非教室性”学園モノの王道であり、前述の2要素よりも普遍性が高く、作品のターゲットを狭めないという利点があるのだろう。
もっとも昨今の国内外の情勢を踏まえて考えるに、必然的に30人から40人ほどが狭い教室内に集まる“教室性”学園モノを制作するには、なかなかリスキーであり、しばらくの間はかなりの困難を要することが考えられる。そうなると、テレビドラマの学園モノも“新しい様式”として“非教室性”作品へと方向転換するか(しかしそれには今以上に緻密なストーリーや、物語を持たせるだけのテクニックが必要とされることは言うまでもない)、もしくは当面の間はジャンルそのもののメインフィールドを映画に偏らせるか。いずれにしても、学園モノの主要ターゲットとなるティーン層を軽視した作品作りはあらゆる面で避けなければならず、映像業界全体が厳しい状況に陥っているいまだからこそ、作り手たちはこれまで以上の試行錯誤が求められることとなるはずだ。
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『思い、思われ、ふり、ふられ』
8月14日(金)全国公開
出演:浜辺美波、北村匠海、福本莉子、赤楚衛二
原作:咲坂伊緒『思い、思われ、ふり、ふられ』(集英社『別冊マーガレット』連載)
監督:三木孝浩
脚本:米内山陽子、三木孝浩
配給:東宝
(c)2020映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 (c)咲坂伊緒/集英社
公式サイト:https://furifura-movie.jp/