半沢が光秀で大和田が信長!? 『半沢直樹』はビジネス版戦国大河として楽しもう

『半沢直樹』はビジネス版戦国大河!?

 7年前の『半沢直樹』(TBS系)最終回放送時、テレビの前の視聴者は固唾を呑んで、半沢(堺雅人)に糾弾された大和田常務(香川照之)がついに負けを認め土下座する決定的瞬間を見守った。半沢は涙ぐみながら叫んでいるし、大和田は壊れたロボットのような動きで膝を折るし、なんだかすごいことになっている。誰もがその場面の迫力に圧倒された。そして、最高視聴率は一般劇歴代2位の42.2%(最終回)。平成のTVドラマで最大のヒット作となった『半沢直樹』の続編がいよいよ7月19日からスタートする。

 7年前もヒットの理由はさまざまに分析された。よく指摘されたのは、『半沢直樹』は“サラリーマン時代劇”であるということ。原作者はビジネス小説のベストセラー作家、池井戸潤であり、物語の舞台は実在のメガバンクを連想させる東京中央銀行なのだが、ドラマではテイストが変わっていて、エリート銀行員の半沢が「倍返しだ!」と言いながら繰り広げる復讐劇は、日本人が昔から愛する勧善懲悪の物語だ。

 半沢が10代の頃、町工場の経営者だった父親(笑福亭鶴瓶)は銀行に融資を止められて自殺してしまい、半沢はそのときの銀行担当者だった大和田に恨みを持っていた。彼が銀行員になったのは大和田に復讐するためであり、大和田が取締役会の最中、中野渡頭取(北大路欣也)の前で屈辱に耐えながら土下座したのは、半沢の仇討ちがかなった瞬間だったのだ。他にも、『七人の侍』のごとく、半沢の元に同期の仲間や義理人情に厚い中小企業の社長たちが集まってきて協力してくれたり、半沢の妻・花(上戸彩)がくノ一(女性忍者)のように銀行員の奥様会で情報を入手してきたりと、ドラマオリジナル部分に時代劇的要素が散りばめられている。

 いっそ『半沢直樹』は戦国大河と言ってもいいのかもしれない。タイトルも『俺たちバブル入行組』(第1巻)という原作から変えて、大河ドラマの名作『徳川家康』(NHK)のような個人名となった。銀行内では出世競争や派閥争いが盛んで、まさに世は戦国という感じ。銀行の各支店には支店長という戦国大名がいて、いつか頭取になってやると天下取りを夢見ている。だとすれば、半沢は、最終回で「敵は本能寺にあり!」とばかりに取締役会議に乗り込み、織田信長(大和田常務)を討った明智光秀だったのか。さしずめ中野渡頭取は足利将軍だ。そして、主君討ちというタブーを犯した光秀のように、半沢もまた評価されず、子会社の証券会社に出向となってしまった。ちなみに豊臣秀吉的な人物も存在する。今回の続編から登場する伊佐山(市川猿之助)で、大和田を「おやかたさま」とばかりに崇拝し目標としていたので、彼を糾弾した半沢を恨んでいるのだ。

 今回の続編は戦国武将のもう1つの対立構造にも当てはまる。半沢と大和田の関係は、徳川家康と秀吉のようでもある。信長亡き後、天下人となった秀吉は、これまで何度も戦をし、自分に腹の底からは従っていない家康を遠い関東の地に追いやった。そんな家康の境遇は、証券会社に出向させられた半沢に重なる。その新天地である証券会社で、半沢は闘志を絶やすことなく力をつけ信頼できる部下たちを得て、巻き返しを図ることになるだろう。

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