半沢が光秀で大和田が信長!? 『半沢直樹』はビジネス版戦国大河として楽しもう

『半沢直樹』はビジネス版戦国大河!?

 もともと日曜夜は時代劇の強い時間帯だった。日曜劇場のひとつ前、夜8時台では、NHKの大河ドラマが放送されており、視聴率は題材によってアップダウンするが(やはり戦国ものが強い)、安定した人気を誇っている。『水戸黄門』(TBS系)など、民放で時代劇のレギュラー放送が終わってしまい、勧善懲悪の物語を求めていた時代劇ファンをうまく取り込んだのが『半沢直樹』だったのではないか。主演を『篤姫』『新選組!』(ともにNHK)で二度の大河ドラマ出演経験がある堺雅人にしたことも大きい。しかも、『半沢直樹』のあと、堺は2016年の大河ドラマ『真田丸』(NHK)に主演し、今回、満を持して『半沢直樹』に戻ってきた。他のキャストにも時代劇スターである北大路欣也や歌舞伎役者でもある香川照之(市川中車)、片岡愛之助、今回、参戦する市川猿之助らを配している。今回は、くしくもコロナ禍のため2020年大河の『麒麟がくる』(NHK)が放送休止しているタイミングでスタートするので、時代劇ファンはこちらに流れる可能性も高い。

 時代劇が民放のプライム帯で放送されなくなって久しいが、平成生まれの歴史ファンではない平成生まれの多くの人にとっては、時代劇で描かれる時代は感覚として遠すぎるし、その登場人物はもはや共感を乗せられる存在ではない。『半沢直樹』で展開する「忠臣蔵」のような仇討ちも、赤穂浪士ではなく、スーツを着たサラリーマンがやるからこそ見ていられるのだ。逆に時代劇を娯楽のひとつとして認識している昭和生まれには、『半沢直樹』は時代劇の二次創作(転生もののようなシチュエーション違い)としてすんなりと楽しめる。これは強い。

 もちろん、池井戸潤の原作にあるビジネスシーンのリアルや「日本のものづくり産業を支えるため、企業にアドバイスしつつ資金を融資する」という銀行マンの社会的正義も描かれるからこそ、現代劇としてのリアリティが成立している。それなら、原作どおりにドラマ化すればよかったのではないか?という疑問も生まれるが、この日曜劇場という連ドラでも屈指のメジャー枠においては、わかりやすい時代劇要素を組み込むことが必要だったのだろうと思う。

 主人公の対決相手があまりに悪人然としていると、「今どきこんな人はいないよ。リアルじゃない」という声も挙がる。『半沢直樹』では時代劇のように悪人が料亭の座敷で会い、「越後屋、お主も悪よのう」「お代官様こそ……フッフッフ」とばかりに不正取引の密談をする。その決定を受けて、通常通らないような融資が通り、人事昇格や降格、出向などが、オープンにされることなく決定していく。それは本当に今の現実ではありえないことだろうか。私たちは、現実の事件でも官僚が文書の改ざんを強いられ、トカゲのしっぽ切りのようにその罪を着せられたことを知っている。その周りで文書書き換えを決断したり部下に命じたり、発覚後は部下や同僚に責任を押し付けたりした人たちがいたことも容易に想像できる。

 7年前、『半沢直樹』が驚異的な視聴率を叩き出したとき、主演俳優はあまりに大きい反響に首をひねりながらもこう分析していた。「これはきっと、世の中に半沢のように理不尽な思いをしている人がたくさんいるってことですよ」と。“いま光秀”の半沢が生き馬の目を抜く戦国のようなビジネスバトルで今度こそ正義を通せるかに注目したい。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
日曜劇場『半沢直樹』
TBS系にて、7月19日(日)スタート 毎週日曜21:00~21:54放送 ※初回25分拡大
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS

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