『MIU404』に感じるキャラクターたちの人生 単なる事件解決で終わらないチームの力量

解決だけで終わらない『MIU404』の力量

 加々見の「やってない」という言葉を信じて味方になろうとした田辺夫妻に、そして加々見は無実を証明しようとしていると信じている伊吹に、志摩は「人は、信じたいものを信じるんだよ」と喝を入れる。と、同時に第1話の「俺は他人も自分も信用しない」という言葉が脳裏によぎる。自分が信じたことがキッカケで深い傷を負った人の言い分にも思えたからだ。

 「(やってないという時は)自分がやってしまったことを、認めたくないんです。できることなら、罪を犯す前に戻りたい」「なかったことにしたい。でも時は戻らない」「加々見は、自殺するかもしれません」そう志摩が、加々見の心情を推測するのは、刑事としての経験か、それとも……。

 普段から実直に仕事に取り組んでいた加々見。慣れない手つきで包丁を万引きをし、救いを求めるように訴える姿に、田辺夫妻のみならず視聴者もすっかり信じてしまったのではないだろうか。「信じる」ということは、そうであってほしいという「願い」そのもの。だが、人が信じるというのは、それだけ危うさをはらんでいるということを忘れてはいけない。相手を救うことになると信じながら、自分が救われようと願い、真に救う方法を見失ってしまいかねないからだ。きっと志摩はそれを知っているのだろう。

 加々見が逮捕された瞬間、田辺夫婦は実の息子に言えなかった、そして加々見は父親から聞けなかった「ごめんね」の言葉でつながる。壮大な富士山の前で、加々見がなんとも言い難い表情を浮かべて頭を下げた。子どものころから見てきた変わらぬ景色を、今も変わらず呪っているのか。それとも、その田辺夫妻の言葉で景色が変わって見えたのか。その見方は、私たちの「願い」次第だ。

 そして事件解決後、志摩もまた伊吹に「殴って悪かった、ごめん」と告げる。そのトーンは、いつものようにじゃれ合う口喧嘩。だが、まるでもう会えない相手の代わりに、目の前の人に伝えたかった言葉を投げかけた田辺夫妻のようにも聞こえてくる。そして、さらに「お前は、長生きしろよ」という意味深な言葉も続く。

 刑事のバディものといえば、事件を解決して単純明快な爽快感が売り。しかし、そこで終わらないのが『MIU404』チームの力量だ。2組の親子のストーリーが、2組のバディの過去と未来にリンクしていく。そして次回第3話では、なんと『アンナチュラル』の世界線ともリンクするというから、驚きだ。両作を担当する新井順子プロデューサーは、「『MIU404』と『アンナチュラル』の世界はつながっていて、どこかでミコトも生きていると思っている」と語った。

 私たちが生きている限り人生が続くように、キャラクターたちの人生もどこかで続いている。ドラマのための事件ではなく、その世界で起きた事件をドラマとして観ているという感覚。だからこそ、じっくりと作品を味わうことができるのだ。大ヒットドラマ『アンナチュラル』の成功が、『MIU404』の制作環境を自由にしているとも聞いた。ならば、このドラマがどこまで深く味わい深いものになるのか、伊吹&志摩コンビよろしく制作陣にも大いに暴れてほしい。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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