ヒョンビン出演作で振り返る韓流ラブコメ 『私の名前はキム・サムスン』から『愛の不時着』まで
『愛の不時着』
韓流ドラマの2010年代以降のラブコメは、『シークレット・ガーデン』のような入れ替わりものだけでなく、『屋根部屋のプリンス』に代表されるタイムスリップもの、『美男ですね』や『トキメキ☆成均館スキャンダル』のような、男装した女性が男性だけの集団生活に潜り込むものなど、さまざまな試みに挑戦していたことが思い返される。
そして『愛の不時着』も、北朝鮮と韓国のラブストーリーという、今までにない新たな設定でも話題となった作品であるが、実はその中に描かれるキャラクターや物語の展開自体は、ものすごくオーソドックスな王道のラブコメディの型をリスペクトをこめて、もう一度丁寧になぞっていると感じる。
ヒョンビンの演じるリ・ジョンヒョクも、ダメなところと、それ故に見え隠れする人間性の可愛さという点で言うと、過去に演じたジノンやキム・ジュウォンとも共通している。その上で、これまでにない魅力として、現実でも兵役も終え、30代後半になったヒョンビンが、見た目的にも、風格的にも、人間的にも、一回り大きくなったのだなと思わせるところではないだろうか。
デビューからしばらくは、繊細ではかなげな役も多かったが、テレビドラマとは思えないスケールの(もちろん、過去にも『IRIS-アイリス-』などもあったが)アクションシーンがあったり、また軍人という職業柄ということもあるのか、寡黙で、感情を抑えたキャラクターながらも、恋愛には奥手な「母胎ソロ」であり、自分が嫉妬しているともわからずに、子供のように拗ねたりする姿は、大人になったヒョンビンだからこそ見せられる魅力にも思えた。
こうして原稿を書いてみて、ヒョンビンを振り返ることは、韓国のラブコメを振り返ることにもなることに気づかされた。近年は『コンフィデンシャル/共助』や『ザ・ネゴシエーション』など、映画の世界でときには寡黙な強さを、ときには凶悪さを演じてきたが、ここにきて、その経験を活かしつつ原点に返ってきたのだと感じる。40代、50代を迎えたヒョンビンも、またいつかもっと大人になった姿でラブコメで新たなキャラクターを見せてくれることもあるのだろうか。そんな日が来るとしたら今から楽しみだ。
■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。
■配信情報
『愛の不時着』
Netflixにて配信中