『今夜、ロマンス劇場で』は日本版『ニュー・シネマ・パラダイス』? 数々のオマージュに注目
『テルマエ・ロマエ』や『翔んで埼玉』といったなかなかトリッキーな漫画作品を忠実かつ器用に映像化してきた武内英樹監督がメガホンを取り、綾瀬はるかと坂口健太郎が共演したファンタジックなラブストーリー、『今夜、ロマンス劇場で』が5月16日にフジテレビ系列で地上波初放送される。
冒頭から『ローマの休日』のオードリー・ヘップバーンを意識したようなプリンセスの逃亡と、彼女が森で不思議な出で立ちの3人と出会うという『オズの魔法使』らしい要素を融合させた劇中映画で幕を開ける本作。映画監督を目指す青年が、通い詰める映画館「ロマンス劇場」のフィルム保管庫に眠っていた希少な映画の中に登場するヒロインに恋心を抱くと、たちまち映画の世界からそのヒロインが飛び出してくる。現代の時間軸で入院する老人が看護師に語る物語という体で回想的に描かれていくわけだが、もっぱらその大筋はウディ・アレンの80年代屈指の名作である『カイロの紫のバラ』だ。
同作は現実の生活から逃避しようとしたミア・ファロー演じるヒロインの前に、映画の中の登場人物が舞い降りてくるという次元を超えた恋模様をコミカルかつ叙情的に描いた作品である。モノクロの映画からカラーの現実世界に飛び出してきた登場人物は、必然的に現実世界に順応してカラーになる。そういった点で、モノクロの映画からモノクロのまま綾瀬はるかが飛び出してくるという視覚的な面白さを活かした本作は、『カイロ〜』のアイデアを残しながらも違うベクトルで物語を紡いでいくという姿勢をあらわにする。もっとも、ここでもうひとつ90年代のゲイリー・ロスの傑作『カラー・オブ・ハート』との類似性も生まれてしまうわけだが、それも映画の“色”が持つ意味合いを変容させることで独自のニュアンスに切り替えているのである。
かれこれ20年以上、ないしはそれ以上にわたり日本映画界は慢性的なアイデア不足に陥っていると指摘され続けている。それこそテレビドラマの劇場版化や漫画の実写化など、様々な形で既存のアイデアを膨らます策が練られているわけだが、近年ではとりわけ過去の洋画からアイデアを引用していると思しき作品が目立つ。あえて具体的なタイトルは挙げないが、恋人の記憶が突然消えたり、あるカップルの数十年をコラージュ的にまとめてみたり、同じ主人公が7人いたりなどなど。こうした流れを否定的に捉えることは極めて容易ではあるが、重要なのはそのアイデアからどのように新しいものへと拡げていくかということである。それは日本を舞台にした物語へ置き換えるローカライズであったり、別のアングルから回り込んでストーリーテリングを組むことなど様々な方法がある。少なくとも本作では、どちらの方法論を活かしながら、同時にありとあらゆる映画のオマージュを網羅することで毅然と“新しいもの”を生み出しているといえよう。