ジャ・ジャンクー監督ら、“外出自粛”で短編発表 限られた環境下で生まれる創意工夫を追う
もちろんこのゴンドリーのように、短い作品であればたったひとりで作ることも可能だ。短編映画と呼べるものではないが、アードマンスタジオのクリエイターで『映画ひつじのショーン UFOフィーバー!』で長編監督デビューを飾ったウィル・ベチャー監督も、先日Twitter上でイースターを祝う短いストップモーション・ムービーを公開していた。キャラクターの声を担当したのはウィルの娘さんだということで、家にこもっている期間に家族の娯楽の方法として映画作りをするというのは、実に楽しく有意義な過ごし方といえよう。
『ライト/オフ』や『シャザム!』を手掛けたデヴィッド・F・サンドバーグ監督も、自宅で妻のロッタ・ロステンとともにホラー短編『Shadowed(原題)』を制作。これがまた出色の出来栄えで、寝室で突然闇に包まれた女性が懐中電灯を片手に、様々な不穏な“影”に襲われていく姿を描いた作品だ。本作は本編映像と合わせて、事細かにディテールの作り込みを解説したメイキング映像も公開されており、ひたすら興味深い。もっとも、かなり手の込んだ方法を使っていることがメイキングからわかるわけだが、それでも随所にアイデアで乗り切れる方法も提示されているので、映画作りを志している人にはかなり勉強になるのでは。
日本でもこうした“外出自粛”の環境を活かした映画作りが着々と進行している。先日は『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督がキャスト陣をテレビ電話の画面でつなげた『カメラを止めるな!リモート大作戦!』を公開したり、斎藤工も『TOKYO TELEWORK FILM』なる作品を製作。常に画面に被写体が映り、彼らがカメラを観ながら喋るというのは、いかにも被写体とセリフに注力する日本映画らしい感じがしてしまうのだが、その分編集のおもしろさというものが際立つことだろう。それにどことなく“小津っぽさ”が出るような気もしなくもない。
ほかにもロジャー・コーマンが自宅で撮影した映画を集めた映画祭を企画するなど、世界中であらゆる試みが行われているだけに、今後もこのような作品は増え続けていくことになるだろう。とはいえひとつ気がかりなのは、監督や演者に表現の機会が与えられても、撮影監督や照明技師、録音技師などの裏方のスタッフたちに彼らの技量を活かす場が与えられづらいのではないかということである。どんな状況下でも“映画”というものは滅びることがないと証明されたとはいえ、一刻も早く事態が収束し、この期間に培われたあらゆるアイデアや手段と従来の優れた技術がきちんと重ねあわされる時を、ただただ待ち望むばかりである。
(情報・写真提供:新浪)
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter