『麒麟がくる』道三が見せた、父の苦しみと真実の愛 十兵衛に託した「大きな国」
斎藤高政(伊藤英明)による孫四郎(長谷川純)と喜平次(犬飼直紀)、2人の弟たちへの暗殺が国を二分する戦にまで発展し、十兵衛(長谷川博己)は高政と道三(本木雅弘)どちら側につくか決断を迫られる。『麒麟がくる』(NHK総合)第16回は、長良川の戦いに向けて、それぞれの目まぐるしく移りゆく心情が巧みに描かれる。
タイトルは「大きな国」、は、道三自らが成しえずに十兵衛に託した夢を表している。戦を止めるように説得に来た十兵衛は、道三と夜明け前の暗がりの中、様々なことを話す。高政の父親が本当は道三であること。高政はそれをわかった上で、土岐源氏の血を引く子だと吹聴し、出生を虚飾することで人を率いようとしていること。そして、道三自身は叶えられなかったが、天下統一して「大きな国」を作るという夢を持っていたこと。油売りから武士になった父に育てられたという自身の出自から、「ワシは老いぼれた」という憂いに満ちたつぶやきまで、弱々しい姿を見せる。道三は自身の夢を十兵衛に託したのだ。そして2人の背後には徐々に朝日が昇る。この夜明けは、開戦の証でもあり、道三が自らの手で父として高政の行いに責任を持つための重要なシーンになった。
さらに今回は、年長者たちが立場を退く悲哀が美しく描かれる。光安(西村まさ彦)は、十兵衛に止められていながらもそれを振り切って鶴山の道三の陣に向かい、最後には忠誠を誓う道三の元についた。高政の前では、一生懸命取り入ろうと踊りを見せるものの、領地の見直しのため、明智家代々の土地に残ることができないと知った光安はひどく落胆する。それに加え、高政から十兵衛に家督を譲ることを言い渡された光安は、大切に可愛がってきためじろを籠の外に逃してしまう。これは高政軍よりも兵数の少ない道三軍につくことの意味を暗に示していた。