窪田正孝の真価はきめ細やかなリアクションにあり コメディ色の強い『エール』で際立つ演技力

窪田正孝、『エール』で際立つ高い演技力

 こうやって切り出してみると顕著だが、窪田正孝の演技はリアクションの数が非常に多いし細かい。たとえば、父・三郎(唐沢寿明)に「音楽家になりてえのか」と問われるシーン(第11話)では、目をそらしたり、顔を上下に揺らしたり、頬筋を何度も小さくヒクつかせたり、いくつもの作用を組み合わせて繊細に反応してみせた。これは内向的な裕一のキャラクターに合わせて、あえて普段よりもより小刻みに反応を入れているのだと思うけど、この生感のあるリアクションによって、コメディチックなお話の中でも、窪田正孝の演じる裕一はどこか息遣いを感じさせる人間として、きちんとそこに存在していられるのだ。

 そんな窪田正孝の繊細な演技が現時点で最も光っていたのが、権藤家への養子縁組が決まり、音楽の道を諦めざるを得なくなったシーン(第13話)だ。自室へ戻ってきた裕一はこみ上げる嗚咽をこらえるように手の甲で口を覆う。そして、大切な楽譜を自らの手で破る。号泣してもいい場面だが、裕一は涙を流さない。顔をくしゃくしゃにして、楽譜に顔を埋めながらも、涙だけはこぼさない。むしろ泣いてたまるかという様子で、目を真っ赤にさせながら上唇と下唇を押し当てぎゅっと突き出す仕草がリアルで、見ているこちらの鼻先がツンと痛んだ。オーバーラップする指揮シーンと含めて、窪田正孝の才気が迸る好演技だった。

 物語は第5週に入り、ずっと手紙のやりとりしかなかった裕一と音がいよいよ対面。ふたりがどうやって結ばれていくかが、今後の焦点となりそうだ。人の心の襞をグラデーション豊かに見せる力を持った窪田正孝の本領を、ここからさらに発揮してほしい。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜9月26日(土)予定
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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