窪田正孝の真価はきめ細やかなリアクションにあり コメディ色の強い『エール』で際立つ演技力

窪田正孝の真価はきめ細やかなリアクションにあり コメディ色の強い『エール』で際立つ演技力

 先日、映画『初恋』を観て、やっぱり窪田正孝はいい俳優だなと思ったシーンがある。

 この映画の中で彼が演じたのは、余命わずかのボクサー・レオ。生気のない瞳と吐息混じりの声。その佇まいは、歌舞伎町を徘徊する猫のようだった。それが、物語の中盤で、ある事実を知ることによって一変するのだけど、そのときのリアクションが絶妙だったのだ。

 ずっと孤独で、だからこそ果敢なヒーローにも見えたレオが、突然臆病で愛嬌たっぷりの人間に変わる。そして、レオのキャラクターが反転したのをフックに、映画もさらにアクセルがかかり、ものすごく笑えて、ものすごく凄惨で、ものすごく痺れるバイオレンスエンターテインメントへとギアチェンジした。静謐な純愛文学と血生臭い任侠活劇が変幻自在に入れ替わるクレイジーな本作で、窪田正孝もまた、ひとりの人間を演じながら見事に“化けて”みせたのだ。

『初恋』(c)2020「初恋」製作委員会

 窪田正孝は、こうした繊細な演技と振り切った演技を巧みに使い分けられる俳優だ。いわゆる陰と陽という対極の役柄をどちらもこなせる俳優自体はそんなに珍しくない。基本的にお芝居は特徴が立っている役ほど演じやすい。だから、陰陽/硬軟どちらの役柄もやってのけることは、基礎技術を持った俳優ならさほど難しくはないだろう。

 むしろ窪田正孝の特異性は、こうした繊細な演技と振り切った演技をひとつの役柄の中で違和感なく共存させられるところだ。現在放送中の連続テレビ小説『エール』(NHK総合)でも、そんな窪田正孝の実力を垣間見ることができる。

 『エール』は、昭和の時代を彩った名作曲家・古関裕而と、その妻・金子をモデルにした夫婦の物語だ。窪田が演じるのは、主人公・古山裕一。ドラマは現時点ではコメディ色が強く、ダンスホールの踊り子・志津(堀田真由)に恋をしてのぼせ上がったり。国際作曲コンクールに向けて曲づくりに励もうとするもちっともアイデアが浮かばず絶叫したり。どちらかと言うと、コミックテイストな演技を要求される場面が多い。窪田はこれまでも『ヒモメン』(テレビ朝日系)などでテンションの高い演技を披露しており、わかりやすい表情重視のリアクションもお手のものだ。

 しかし、こういった振り切った演技でも芝居が大味にならないところが、窪田正孝の妙味。秘密は、彼の繊細さ――もう少し具体的に言うときめ細やかなリアクションによるところが大きい。

 たとえば、文通相手の関内音(二階堂ふみ)からの返事が来なくて嘆くシーン(第20話)では、壊れたようにうちわで頭を叩く。これだけでも十分ユーモラスなのだけど、窪田正孝のセンスが光るのは、ポカスカと頭を叩いたあとに、最後におまけみたいにもう一度だけ頭を叩くところだ。このダメ押しの一手が入ることで、予定調和のリズムに意外性が生まれて、視聴者は思わずクスッとなる。

 藤堂先生(森山直太朗)と食事デートをする菊池昌子(堀内敬子)の横で余計な口を挟み詰められているシーン(第20話)では、目の泳ぎ具合や瞬きなど細かいリアクションをいくつも放り込むことで、裕一のたじろぎを滑稽に見せた。かと思えば、村野鉄男(中村蒼)と再会したシーン(第15話)では、「俺が詩を書き、お前が曲をつくる。その歌がレコードになり、みんなが聴く」と夢を語る村野に咄嗟にうれしそうな反応をしたあと、気持ちを打ち消すように表情を隠し、眼球を小さく左右に動かして、誤魔化し笑いに切り替える。この一連の表情の変化だけで、音楽に対する裕一の名状しがたい想いが語らずとも伝わってきた。コミカルな場面もシリアスな場面も、窪田正孝の細かいリアクションが作品の幹となっているのがわかる。

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