『エール』“ミュージックティチャー”古川雄大 演劇界のプリンスから独特な曲者キャラへ

古川雄大、演劇界のプリンスから曲者キャラへ

 そんな古川だが、ある取材時に「今、ハマっているものは?」という問いに対して「塩むすび」と答えてくれたのが興味深かった。理由は「味がしないから」。雑味のない真っ白なおにぎりを華麗に食す彼の姿が目に浮かび、その場の空気が柔らかくなったのをよく覚えている。

 また、事務所移籍後は映像の世界にも積極的に進出。2018年の『下町ロケット』(TBS系)では、「米なんて食えればいいんだよっ!」と殿村(立川談春)を見下しあざ笑う吉井浩役を、2020年1月期の『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』(日本テレビ系)では、医師たちが集うバーのイケメンオーナー、来島達也を演じている。

 こう並べてみると、舞台では華麗、繊細、プリンスという表現がぴったりハマる古川が、映像では逆に作品に強い色味を与えるクセが強めなキャラクターを演じていることに気づく。舞台、特にミュージカルで注目され映像に出演するようになる俳優で、こういうタイプはとても少ない。

 『エール』で古川が演じる御手洗はドイツ帰りの音楽家。さらにトランスジェンダーという難しい役どころだ。朝ドラでは珍しく、第4週までヒロイン枠である音の同性の友人が出てこない中、御手洗がその役割も担っているということだろう。裕一から留学の話を聞いた音に「あなたも行っちゃえばいいじゃないっ!」と背中を押し、「わたしもドイツに帰っちゃおうかしら」と海の向こうに思いをはせる。今後、“ミュージックティーチャー”の過去がどう明らかになるのかも楽しみだ。そして、これから日本が戦争に向かう中、御手洗のような音楽を愛するトランスジェンダーがその渦の中でどう生きていくのかも非常に気になる。

 『エール』は音楽をテーマにした朝ドラということもあり、今回ピックアップした古川雄大に加え、多くのミュージカル俳優の出演が決まっている。今後も舞台のみならず映像でも輝く彼らの活躍に注目したい。

※記事初出時、一部に記述の誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜9月26日(土)
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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