映画製作、劇場興行、配信プラットフォームまで 新型コロナウイルスがハリウッドに及ぼす影響

新型コロナがハリウッドに及ぼす影響

 以上のように、配信や興行でそれぞれ違った形で厳しい戦いを迫られているわけだが、ウイルスの状況が収束した後、ハリウッドが何事もなかったかのように元に戻るのかというのは一つの大きな疑問である。4月1日にDeadlineに出された記事によると、全米6800人を対象にした調査で、「コロナ禍が収束したらまだ映画館に足を運ぶか」という質問に対し、答えの中で最も多い45%の人々が「かなり高い確率で戻る」と答え、さらに追加の質問では20%が「収束次第すぐにでも」、25%が「収束してから数日以内には」と答えたとのこと。一方で11%が「数ヶ月は待ちたい」と答え、映画鑑賞をめぐる一部の消費者の行動にも変化が現れるかもしれない。

Netflixオリジナル映画『アイリッシュマン』独占配信中

 さらに、消費者行動だけでなく、映画ビジネスをめぐる最も基本的な慣習も変わるかもしれない。実は、これまで映画は劇場公開をファーストウィンドウとし、そこからDVDやVODが始まるまでには約3ヶ月の時間をあけるのが通常であり、このモデルを壊すことについては劇場側から強い反発を招いてきた。今までも、例えばNetflixによる『アイリッシュマン』は劇場公開から配信開始までの期間の折り合いがつかず、大規模公開がかなわなかったし、2017年にも30~50ドルの価格帯で劇場公開後20日~45日で配信を可能にするという案が、いくつかのメジャースタジオから上がった際にも、劇場側の強い反発があった。しかし、このような非常事態の中で、通常よりも早く配信を開始するなど、これまでできなかった実験ができたことで、今後ハリウッドの慣習や人々の消費行動を変えてしまうことは大いにありえるのだろう。

 ハリウッドでも新型コロナウイルス禍のロックダウンで思わぬ追い風が吹いている配信であるが、配給側、特にハリウッドのスタジオも、非常事態における映画ビジネスの脆さというのを目の当たりにし、より柔軟で多様な公開方法に舵を切っていくところが見られるかもしれない。

参照

https://deadline.com/2020/04/coronavirus-moviegoing-study-cinemas-reopen-on-demand-streaming-viewing-quarantine-1202897573/
https://deadline.com/2020/03/animation-tv-series-continue-coronavirus-challenges-1202890786/
https://deadline.com/2020/03/jeffrey-katzenberg-quibi-launch-interview-1202894393/
https://deadline.com/2020/03/streaming-services-quibi-hbomax-peacock-launches-coronavirus-impact-1202892947/

■田近昌也
北海道出身。上智大学外国語学部卒。東京でインテリアの営業を経て、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院プロデューサー科を修了。その後メジャースタジオの長編映画企画開発部門などで経験を積む。

■公開情報
『ムーラン』
近日公開
監督:ニキ・カーロ
出演:リウ・イーフェイ、コン・リー、ジェット・リー、ドニー・イェン
オリジナル・サウンドトラック:ウォルト・ディズニー・レコード
ジュニア・ノベル:小学館
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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