喜美子の覚醒はどこで起きたのか? 『スカーレット』日々の積み重ねと“気づき”の先にあるもの

喜美子の覚醒はどこで起きたのか? 『スカーレット』日々の積み重ねと“気づき”の先にあるもの

 主人公が夢を追いかけ、その道を極める物語が大多数である朝ドラにおいて、「覚醒する瞬間」はひとつの山場だ。ヒロインが何らかの大きなひらめき、あるいは天啓のようなものを得て目の前がパァッと開け、そこからは堰を切ったようにグイグイ邁進していく。こうしたシーンには、たしかにカタルシスがある。しかし、一筋縄ではいかないことでおなじみの『スカーレット』(NHK総合)には、眩しいスポットライトが当たるような、「ビカーーッ!」と音のするような、わかりやすい「覚醒ポイント」がなかった。では、喜美子(戸田恵梨香)の覚醒の瞬間はどこにあったのか。

 第18週「炎を信じて」では、喜美子が長い長い苦しみの果てにやっと穴窯を成功させ、ずっと求めていた「自分にしか出せない色」が出せた。こうしてようやく「陶芸家・川原喜美子」が誕生したわけだが、その代わりに夫の八郎(松下洸平)を失うという展開だった。この週には第1回冒頭にあった、穴窯が火を吹き、喜美子が「もっともっと燃やすんや!」と薪をくべるシーンも再登場した。つまりここから「陶芸家・川原喜美子」の物語が本格的に始まるのだが、そこに至るまでには一度や二度ではない、じわりじわりと断続的に繰り返される「覚醒の積み重ね」があった。

 思えば、喜美子は昔から自分の心の声に耳を傾けて答えを見つけ出す人だった。父・常治(北村一輝)に向かって言いたい「この気持ち」は何なのか、一晩考えて「女にも意地と誇りはあるんじゃ」という答えを見出した少女時代。中学卒業後に働きに出た大阪では、荒木荘の女中の仕事よりも給料の良い新聞社への転職話が持ち上がるが、じっくりと自分に問いかけた末、「いちばん嫌いなことは途中で投げ出すこと」だとわかり、荒木荘に留まることを決意した。今にして思えば、これらも喜美子にとって大事な「覚醒」だったのかもしれない。子どものころからつきまとう貧困ゆえの不遇を誰のせいにもせず、「自分で決めた道」としてきた喜美子は、答えは自分の中にあると考えている。喜美子の覚醒はいつでも自分自身と向き合ったその先にあった。

 やがて八郎と出会い、陶芸と出会い、恋をして、喜美子の内なる感情がコーヒー茶碗の中に「お花の絵」を描かせた。しかし、結婚して武志が生まれてからは、目先の生活と大量生産の仕事にかまけて「創作」どころではなくなった。そして、喜美子にとって大きな存在であった父・常治が他界する。その死を受け入れ咀嚼し、無意識のうちに自分を縛りつけていた枷から喜美子自身が解放されたことで、初めて「誰のためでもない、自分だけの自由な作品」を作った。だが、その後もやはり日々の生活と「陶芸家の妻」としての仕事が忙しい。ドラマの前半までは、つねにこうした「覚醒」と「静置」の繰り返しで、喜美子はまだ自分の内に眠る「本当の欲求」に気づいていなかった。

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