『映像研には手を出すな!』現役業界人の胸をも熱くさせるリアリティ “最強の人選”によるアニメ化

『映像研には手を出すな!』の魅力を解説

 飛躍力抜群のイマジネーションを武器に、自らの夢みる「最強の世界」を作り上げようとする浅草氏。カリスマ読者モデルとして名を馳せながらも将来はアニメーターを目指し、溢れる作画表現への情熱を動画用紙にたたきつける水崎氏。そして、暴走しがちな彼女たちの手綱をクールに引き締めつつ、戦略的に成功の道を模索する金森氏。理想のアニメ作りを実現するために必要な構成要素(演出+作画+プロデューサー)を、明確にキャラ立ちした主要人物3人に集約して振り分けた設定もすこぶるうまい。今回のアニメ版では『獣道』『寝ても覚めても』『全裸監督』などの実写作品で注目を集める女優・伊藤沙莉が浅草役をエネルギッシュに演じ、作品に新鮮な風を吹き込んでいる。金森役・田村睦心のクールな怪演、水崎役・松岡美里のキュートな好演とのアンサンブルはそのままアニメ表現の多様性を体現するかのようで、これまた秀逸なキャスティングだ。

 3人娘のキャラクターには、原作者・大童氏の性格がそれぞれに一部反映されているというが、同じように湯浅監督のなかにも彼女たちは内在しているように思える。優れたアニメーターであり、独自のイマジネーションに溢れた演出家であり、制作会社「サイエンスSARU」を率いる代表兼プロデューサーでもある湯浅監督だからこそ、実感と共感と客観性をもって彼女たちの物語を楽しく描けるのではないだろうか。

 現実世界と空想世界を躊躇なく直結させつつ、その差異を明解に視覚化するアイデアも湯浅演出の真骨頂。空想パートはラフな水彩スケッチ風に描き、さらに効果音を人の声で表現する『風立ちぬ』スタイルで浅草氏の脳内世界を描き出す演出は、湯浅監督の『マインド・ゲーム』の未来予想図パートや『夜は短し歩けよ乙女』のクライマックスなども想起させる。抱腹絶倒の傑作短篇『キックハート』に続く湯浅作品への参加となる、オオルタイチによる浮世離れ感たっぷりの音楽も効果的だ。

 この原稿を書いている時点で、特に印象深いエピソードを挙げるなら、やはり第4話「そのマチェットを強く握れ!」だろう。3人娘が初めて自分たちの作品を(やや不本意な形ながらも)完成させ、初めて人前で発表するという重要な回である。ここでは原作以上に細かくアニメ制作のディテールが掘り下げられ、さらに原作以上の飛躍をもって「アニメーションの力」が可視化される。クライマックス、映像研の作った短編アニメが観衆を有無を言わさず巻き込んでいく臨場感表現は、まさに湯浅監督が思い描く「アニメの理想」でもあるだろう。アニメーションでアニメ制作について語るという本作のメタ的面白さが最初にピークを迎えたエピソードとしても、白眉の仕上がりだ。

 ちなみに僕にも学生時代、アニメ好きの友人たちとの出会いがあった(彼らもやっぱり3人組だった)。授業が終わると部室に集まって好きなアニメや作画の話ばかりしていた彼らは、やがて短編アニメの自主制作に熱中し、完成した作品は同級生たちの度肝を抜いた。3人とも、いまも現役バリバリのアニメーター、演出作監、美術監督として活躍している。

 だから知っている。いつの時代にも「映像研の面々」はいて、いまも夢中で何かを作ろうと頑張っていることを。この作品が、そんな人たちに限りない勇気と力を与える作品になる未来を願ってやまない。

■岡本敦史
ライター。雑誌『映画秘宝』編集スタッフとして、本誌のほか多数のムックに参加。主な参加作品に『別冊映画秘宝 サスペリアMAGAZINE』『映画秘宝EX 激闘! アジアン・アクション映画大進撃』『塚本晋也「野火」全記録』(以上、洋泉社)など。劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等にも執筆。Twitter

■放送情報
TVアニメ『映像研には手を出すな!』
NHK総合にて、毎週日曜深夜24:10〜
原作:大童澄瞳(小学館『月刊!スピリッツ』連載中)
監督:湯浅政明
声の出演:伊藤沙莉、田村睦心、松岡美里ほか
キャラクターデザイン:浅野直之
音楽:オオルタイチ
アニメーション制作:サイエンスSARU
(c)2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会
公式サイト:eizouken-anime.com
公式ツイッター:@Eizouken_anime



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