意外な形で結論づけられる“自由”を巡る問い 『ロニートとエスティ』が描く、個としての女性の人生

『ロニートとエスティ』“自由”を巡る問い

 そう思えば、ロニートがエスティをカメラで撮る行為もとりわけ特別な意味を帯びてくる。エスティの実体が消えたとしても、フィルムに焼き付いた彼女の像は残る。そしてその光景をみれば、そこにトッド・ヘインズの『キャロル』(2015年)におけるキャロル(ケイト・ブランシェット)とテレーズ(ルーニー・マーラ)の姿を想起せずにはいられない。『キャロル』が舞台とした50年代のニューヨークには、そもそもロニートが追い求めていった「自由」はなかったかもしれない。ラビの後継者でありエスティの夫であるドヴィッド(アレッサンドロ・ニヴォラ)は、「人は自由だ」と叫ぶが、「自由」を誰に赦されるのか、「自由」は誰から与えられるのか、そもそも「自由」とはーー? 投げ出された「自由」を巡る問いに、本作は意外とも言える形で結論づける。ロニート、エスティ、そしてドヴィッド。この3人で構成された関係性はそのまま世界の縮図のようでもあり、3人が和解し得るとすれば、それは世界の融和として捉えられる。共に在ろうとしなくても、対岸にいる「彼ら」が救いでもあるようにと祈られた結末が気高く待ち受ける。ただ愛すること、愛する者がいた人生を歩むこと、それが原題でもある“Disobedience”(不服従)への“証明”なのであって、そこに愛する者の実体がともなうか否かはさしたる問題ではない。

■児玉美月
映画執筆家。大学院でトランスジェンダー映画の修士論文を執筆。「リアルサウンド」「映画芸術」「キネマ旬報」など、ウェブや雑誌で映画批評活動を行う。Twitter

■公開情報
『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』
2月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督:セバスティアン・レリオ
出演:レイチェル・ワイズ、レイチェル・マクアダムス、アレッサンドロ・ニヴォラ
プロデューサー:フリーダ・トレスブランコ、エド・ギニー、レイチェル・ワイズ
配給:ファントム・フィルム
2017年/イギリス/英語/DCP/カラー/114分/原題:Disobedience/PG12
(c)2018 Channel Four Television Corporation and Candlelight Productions, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:phantom-film.com/ronit-esti

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