『スカーレット』の骨格を担う大島優子と林遣都の存在 常治の“死”が物語にもたらしたもの

人生を描く『スカーレット』の挑戦

 初めての家族写真が喜美子の夫婦になった記念の写真であり、常治を含めた最初で最後の家族写真でもあった。そしてそれが、76話で東京からフラッと戻ってきた直子と家族との会話の後に示されることで、直子の心の中に留まり続けている「元気なお父ちゃん」の最後の姿が家族写真の父親の姿として視聴者の心に補完されるのである。

 また、67話で常治がもったいぶって直子に見せていた電話機が、その後娘たちのためを思って行動する常治の優しさと愛を象徴する全ての出来事に繋がっていく。その電話機の歴史は、酔っ払って大阪の荒木荘に電話し、働いている喜美子の声を黙って聞いて涙する元気なお父ちゃんの姿にまで遡ることが可能なのである。

 しかし、このドラマはいつまでも悲しみに浸ることを許してはくれない。最も反発しながら、最も常治の血を受け継いでいる直子が「一発当てて、そのうち楽さしたるからな」と常治そのままの口調で宣言し、その面影を背負って笑う。

 そして、「もう1人のジョージ」=ジョージ富士川(西川貴教)が夫婦の工房に現われる。家族の歴史と共に増設されていく舞台装置、川原家において、1人のジョージが去り、2人目のジョージが唐突に現われた週が第13週だとして、それが川原家の人々及び喜美子に何をもたらすのか。常に誰かのためを思い、自由を知らず、必要としてこなかった喜美子の心にようやく自由が芽生えた。陶芸家・川原喜美子の物語が始まろうとしている。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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