年末企画:今祥枝の「2019年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 キーワードは“内省”と“再認識”

今祥枝の「2019年海外ドラマTOP10」

 『キリング・イヴ シーズン1&2』『フリーバッグ シーズン2』はひと昔前ならまず通らなかった企画だろう。前者は企画がGOになっても白人女性二人だったかもしれないが、改めてアジア系が云々なんてことはもう意義として語る必要もない時代なのだと思った。作品を見ればサンドラ・オーはサンドラ・オーだからいいんだ! というキャスティングでしかないのだから(私はヴィラネルを偏愛派)。フリーバッグはシーズン1の時についに「クズだけど憎めないし共感できる普通の女性」が市民権を得た! と喝采したが、シーズン2は一歩進んだ迷えるアラサーの姿を見せてくれた。強いとか美しいとかアンチヒロインだとかいろいろあるけど、”男性キャラ並みの多様性”を目指した女性キャラの変遷を長年見続けてきて、こうした作品における女性性を肯定したキャラクターに本当の意味でどんな女性像もアリな時代になったのかなと思う。

 『DEUCE/ポルノストリート シーズン2』は本国でも弾けきらなかったのが残念だが、ポルノ産業で生き抜く女性像としてマギー・ギレンホール演じるキャンディがいかに素晴らしいかは記しておきたい。娯楽作品におけるエロもバイオレンスも正しい状況で制作されるなら楽しいものだ。もとよりHBOの作品は高い料金設定によるゾーニングを理由とした過激表現がウリなのだから。でもやるならその先にあるものを描いてくれないと。“コンプライアンスをぶっ壊す”ことそのものに送り手が満足しているような作品には閉口してしまう。『ユーフォリア』も不完全な作品だが、完成度の高い作品がわんさとあるピークTV時代の今こそそこに引かれた。『13の理由 シーズン1』に死ぬほど共感して泣いた私は、『ユーフォリア』によってZ世代が絶望するこの世界を作ったのは誰なのかを考えざるを得なかった。

『チェルノブイリ』(c)2019 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 『チェルノブイリ』の凄さについて今更語ることもないだろうか。語り尽くされた題材を今映像化することで浮き彫りになる、作り手たちの内省と問題提起からの視聴者の再認識を促す意義は計り知れない。映画『Fukushima 50』は、そういう意味では何を見せてくれるだろうか? ぜひ見比べてみて欲しいなと思う。

 最後に。個人的に『ゲーム・オブ・スローンズ』『レギオン』『アメリカン・ホラー・ストーリー』はシリーズ全体として殿堂入り。最後まで残した10本は、『ホームカミング』『グッド・オーメンズ』『キャッスルロック』『ザ・クラウン シーズン3』『DARK シーズン2』『サバイバー:60日間の大統領』『After Life/アフター・ライフ』『クリミナル』『キングダム』『ロシアン・ドール』。

■今祥枝
映画・海外ドラマライター/編集者。「日経エンタテインメント!」(海外ドラマはやめられない!)「小説すばる」(ピークTV最前線)「yom yom」(海外エンタメ考 意識高いとかじゃなくて)「シネマトゥデイ」(厳選!ハマる海外ドラマ)など連載中。そのほか「BAILA」「エクラ」等にコラムやレビューを連載&寄稿。Twitter:@SachieIma

■配信情報
『チェルノブイリ』(全5話)
Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」字幕版・吹替版配信中
監督:ヨハン・レンク
脚本:クレイグ・メイジン
製作総指揮:キャロリン・ストラウス ほか
出演:ジャレッド・ハリス、ステラン・スカルスガルド、エミリー・ワトソン、ポール・リッター、コン・オニール、デヴィッド・デンシック、アダム・ナガイティス、ジェシー・バックリー
(c)2019 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.
公式サイト:https://www.star-ch.jp/drama/chernobyl/sid=1/p=t/

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