『本気のしるし』は“男女の関係”をどう描いた? 深田晃司監督が目指したドラマの脱ステレオタイプ

『本気のしるし』は“男女の関係”をどう描いた? 深田晃司監督が目指したドラマの脱ステレオタイプ

「断罪するのは、表現の役割ではない」

ーーその点でいうと、北村有起哉さん演じる脇田は浮世のために借金を肩代わりする辻に「下心じゃないのか」「見返りを求めてるんじゃないか」というふうに追及していて、辻と浮世の関係に強い関心を持っていますよね。脇田さんの役割についてはどう考えていますか?

深田:脇田さんは一番引いたポジションにいる人だと思っています。この日本における男女の格差や扱われ方の違いに気付いて、俯瞰的にこの物語を見ていて、ものすごいリアリストでもある。男女の関係を、恋や愛というような綺麗なことで装飾しようとしても結局その根っこにあるのはもっとドロッとした欲望、欲情や支配欲、所有欲なんじゃないかという部分を見透かしてしまっている人ではないかと。

ーー辻はそれに対して「お前らみたいに欲望にしたがって生きているわけじゃない」と対抗します。

深田:辻もそうは言うけど、それが本音であるかどうかは辻自身でもわからないで言ってるんだろうと思っています。脇田の方が特権的な立場から人間を俯瞰して批評的に話しているんだけど、実際に生きる人間というのは、みんな辻のようにその狭間で鬩ぎ合ってますよね。欲望だけではないし、そこに清らかな愛があると思いたいし、むしろ思い込んで生きているだけかもしれない。その鬩ぎ合いみたいなものを辻は体現しているんじゃないかなと。

ーー辻も、浮世を支配するような、あまり倫理的には褒められたものではない欲を向けているように見えるんですが、作品としてはそこを裁くようなスッキリ感があるわけでは決してないですよね。

深田:そうですね。辻の浮世との向き合い方も様々な解釈ができると思います。それまでの平凡な生活を変えてくれる刺激物としての浮世に惹かれているのかもしれないし、細川先輩(石橋けい)に言われたように自分を優位に立たせてくれる女性としての浮世に惹かれているのかもしれない。辻が峰内(忍成修吾)と浮世を奪い合うところでも、やっぱり2人の男性が自分にとって都合の良い女性を傍に置いておくために奪い合っているようにも見える。辻と浮世の関係は純愛のように手放しに肯定できるものではないと思います。ただ原作もそうですが、ドラマとしてもそれを否定するわけではなく、そういった色んなドロドロしたものも含んでいるのがそもそも私たちが生きることである、というふうにしたかったんです。それを断罪するのは、表現の役割ではないと僕は思っています。物語の中では辻は細川に「そのぐらい罰を受けなさい」とは言われるんだけど、作品としては辻に罰を与えたり、良し悪しの判断はしないというのが原作の面白さであって、自分自身の考えや映画作りとしても、そこは共感し合える部分でした。

「不安感を残したまま終われれば」

ーー恋愛は道徳的なものやルールからは漏れてしまうものもありますし、もっと複雑に折り重なっているものなんだと感じました。

深田:「恋愛関係」と一言で言ったところで、そこにはものすごく複雑なレイヤーがあると思っています。ただ単純に男女が好意を持ち合って恋愛をするというだけではなくて、例えば社会的にはそういった男女は結婚して夫婦という規定された関係をとることが正しいと思われている。でも、やっぱりそんなに単純化できるものじゃないですよね。むしろ、男女が夫婦となって生きることが正しいという物語が描くこと自体が抑圧になるかもしれない。本来表現というのは、正しいとされることに対してむしろ疑っていかなければならないと思っています。『本気のしるし』の原作は、ものすごい揺さぶりをかけている作品だと思うんですね。だからこそドラマの方でも、辻と浮世の核にあるのは男女の関係だけど、そこに対してただ恋愛という言葉ではくくれない複雑なレイヤーを見せていくことができればいいなと思っています。

ーーどういう形で物語に幕を下ろすことになるのか気になりますが、最終回に向けて見どころを教えてください。

深田:普段の自分の映画作りもそうですが、映画で描く2時間、ドラマで描く10話の中で、その関係性や物語が綺麗に完結して終わってしまうのはすごく嘘くさいと思っています。人生でそんな瞬間ってないんですよね。絶対に死ぬまで何かが続いていってしまうし、今クライマックスが来ているような気持ちになっても、その後も時間はだらだらと続いていってしまう。『本気のしるし』の原作の方は見事に綺麗な終わり方をしたなと僕は感じましたが、ドラマ化するにあたって、この2人の関係が完全に円環が閉じるように完結してしまわないで、たまたまその時間が切り取られたにすぎず、この先にも続いていくかもしれない、どう変わっていくかわからないという不安感を残したまま終われればと思っています。

(取材・文=若田悠希)

■放送情報
メ~テレドラマ『本気のしるし』
メーテレにて毎週月曜深夜0:54~1:26、テレビ神奈川毎週水曜よる11時放送
TVer、GYAO!にて見逃し配信中
監督:深田晃司
脚本:三谷伸太朗
プロデューサー:高橋孝太(メ~テレ)、太田雅人(メ~テレ)、松岡達矢(メ~テレ)、加藤優(メ~テレ)、戸山剛(マウンテンゲートプロダクション)、阿部瑶子((ウンテンゲートプロダクション)
出演:森崎ウィン、土村芳、宇野祥平、石橋けい、福永朱梨、忍成修吾、北村有起哉 ほか
原作:星里もちる『本気のしるし』(小学館 ビッグコミックス刊)
(c)星里もちる・小学館/メ~テレ
公式サイト:https://www.nagoyatv.com/honki/
公式Twitter:https://twitter.com/nagoyatv_honki
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