宮野真守、『ウエスト・サイド・ストーリー』で見せたミュージカル・スターとしての“天賦の才”

ミュージカル・スターとしての宮野真守

 宮野の魅力はそのスタイルや声だけではない。くるくると変わる豊かな表情がチャーミングで、特に天真爛漫な笑顔は周囲を明るく照らす天性のものがある。今回の『ウエスト・サイド・ストーリー』では、後に起こる悲劇を思うと前半で見せる笑顔がより切なさを増幅させる。この物語が悲劇へと転がっていくきっかけはいずれも「愛」だ。敵対グループのリーダーの妹を愛してしまったことで歯車は狂い出し、兄弟のように育ったリフへの愛ゆえにトニーは破滅への大きな一歩を踏み出してしまう。

 そして最後はやはりマリアへの狂おしいほどの愛で自らの危険をかえりみず自暴自棄になってしまうのだ。宮野は豊かな表現力でそれらのトニーの行動に説得力を持たせている。ただまっすぐに人を愛する危ういほどの純粋さと、そして彼自身が愛すべき人間であることを、宮野はトニーのキャラクターに内包させていて、激情に駆られて思わず取ってしまった行動も、彼の持つ愛の強さを思うとそうなってしまったのは必然だったのかもしれない、と気持ちがリアリティを持って伝わってくる。

 わかりやすいストーリー、見ごたえのある力強いダンス、名曲揃いのナンバー、とそれだけでも楽しめる要素がたっぷり詰まった作品だが、そこに宮野の持つ演技者としての“天賦の才”も堪能できるとあって十分な満足感を得ることができる。弾けるような愛らしさと美しい歌声を披露するマリア役の北乃きいをはじめとする共演者もそれぞれに魅力を発揮し、時代も国境も超えた普遍的な“ウエストサイド”を観客の眼前に広げて見せる。

 宮野は今回がミュージカル初主演だが、日本のミュージカル界を牽引する俳優の一人となる実力を持っていることをはっきりと示した。声優、俳優としてはもちろんのこと、ミュージカルスターとしても今後更に活躍していくことを大いに期待したい。

■久田絢子
フリーライター。新聞ライター兼編集(舞台担当)→俳優マネージャー→劇場広報→能楽関連お手伝い、と舞台業界を渡り歩き現在に至る。ウェブ「エンタメ特化型情報メディアSPICE」等で舞台・音楽などのエンタメ関連記事を中心に執筆中。

■公演情報
『ウェスト・サイド・ストーリー』Season1
2019年11月6日(水) 〜 2020年1月13日(月・祝)
会場 : IHIステージアラウンド東京(東京都江東区豊洲6-4-25)

原案:ジェローム・ロビンス
脚本:アーサー・ローレンツ
音楽:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーブン・ソンドハイム
初演時演出&振付:ジェローム・ロビンス

翻訳・訳詞:竜真知子
演出補:マイケル・マストロ、薛 珠麗
振付指導:大澄賢也
歌唱指導:山口正義
音楽監督・指揮:井田勝大
指揮:木村康人
音響:エス・シー・アライアンス
照明:アート・ステージライティング・グループ
映像:マグナックス
ヘアメイク:宮内宏明(M’s factory)
衣裳製作:森田恵美子(東京衣裳)
振付指導アシスタント:YUMI
歌唱指導アシスタント:松川 裕
稽古ピアノ:太田美香、濱田竜司
稽古ドラム:山地厚臣、三木洋介
演出助手:河合範子
舞台監督:今野健一(Keystones)
技術監督:小林清隆(Keystones)
宣伝:Loops
制作進行:上野正人、鎌野美由紀、中立亜矢
制作:ゴーチ・ブラザーズ
主催:TBS/ディスクガレージ/ローソンエンタテインメント/電通/BS-TBS
後援:TBSラジオ
企画・製作:TBS
(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀

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