ドラマを脱構築するテレビ東京深夜枠の挑戦 視聴スタイルの多様化で生まれた新たな可能性
2019年の秋ドラマでは、各局の意欲的な試みが目立つ。『俺の話は長い』で30分のショートストーリーを2本放送する日本テレビは、平日朝の『生田家の朝 2019秋』『緑山家の朝』で家族ドラマに新しい風を吹き込んだ。井上由美子を脚本に迎え、原作の「語られざるエピソード」をドラマ化した『シャーロック』(フジテレビ系)は、古典とオリジナルのミックスによってこれまでにない名探偵像を確立。『グランメゾン東京』(TBS系)は三ツ星レストランシェフ監修の豪華な料理シーンが話題になっている。
一方、深夜枠でも、テレビ東京を筆頭にこれまでのドラマの常識を覆すような作品が出現している。従来のドラマを脱・再構築するような作品群はドラマファンにとって見逃せないものだが、ドラマの視聴スタイルが多様化する中で制作サイドも新しい可能性を探っていると思われる。
『知らない人んち(仮)〜あなたのアイデア、来週放送されます!~』(テレビ東京系)は、筧美和子演じるYouTuber「きいろ」が、偶然出会った他人の家で一晩を過ごす4話完結のドラマ。ただし、その展開は一筋縄ではいかない。第0話冒頭の10分から後のストーリーを考えるのは視聴者とプロの脚本家だ。文章やイラストを投稿・販売するnoteアプリと連携して、視聴者の投稿したアイデアと脚本家のシナリオを毎週放送。第2話以降はアイデア出しから撮影・放送までを1週間でこなし、キャストも両方のシナリオを演じるなど異例尽くしの試みだ。
「先の展開がわからない」という言葉を地で行くような予測不可能性が見どころで、各所にちりばめられた伏線がどのように回収されるか予想したり、異なるシナリオを見比べるなど、メタ視点で楽しめるのが特徴だ。おもしろいのは、視聴者編のストーリーがサスペンス調の王道ドラマであるのに対して、プロ編の方は脚本家のイマジネーションが強く出ていること。同じ舞台設定でまったく違う雰囲気の作品に仕上がっているのは、連続ドラマの持つ可変性を示していると言っていいだろう。
一軒家が舞台の『知らない人んち』と好対照なのが、金曜深夜のドラマ25『ひとりキャンプで食って寝る』(テレビ東京系)だ。開放感のある野外でひとりメシを楽しむというシンプルの極みのようなコンセプトは、派手さはないが好きな人にはたまらない作品である。奇数話で三浦貴大、偶数話で夏帆が主演をつとめ、横浜聡子と冨永昌敬が交互にメガホンを握る『ひとりキャンプ~』の魅力は、アウトドアを借景にしたミニマムな演出であり、雨の音や木々のざわめき、焚き火がはぜる音など自然音と光が五感に飛び込んでくる。