『スカーレット』が始まって1カ月! 濃いシーンの積み重ねから見えてきた“働き者”喜美子の成長

 濃い。スタートして1カ月の朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)をひとことで言うと、濃いです。いつもの朝ドラの3倍くらい、話が濃縮されているような気がします。

 ここまでで「大阪から借金抱えて信楽へ一家で引っ越してきた9歳の川原喜美子=きみちゃん(戸田恵梨香)が、いろんな人々と出会い、中学卒業と同時に友だちの照子(大島優子)の家の窯元で働けるはずが断られて、大阪で下宿の女中となり、故郷には帰らずにがんばって3年経ちました」まで描かれているので……1カ月で9年分。半年このままいけば54年分なので、ひとりの女性の生涯を描くならペース配分としてはおかしくないし、こうしてあらすじにしてしまうとごく普通の朝ドラっぽいんですが、文字にできない濃さが、ドラマの中にぎゅーぎゅーになってるんです。

 たとえば22話。

 「空き巣の被害にあい、困ったおとうちゃん(北村一輝)が、きみちゃんの勤める荒木荘へ給料の前借りにやってくる。しかしきみちゃんがやっていた内職のお金が、厳しい先輩女中の大久保さん(三林京子)から支払われ、なんとかなる」話。

 物語としてはそれだけなんですが、実はこの3人のシーンで、喋るのはほとんど大久保さんのみ。親子はお金が欲しいことを言い出せず押し付けあって、顔の表情と身振り手振りだけでやりとりしてる(仲のいい親子なのがこれだけでわかりますね)。セリフがないのにドラマが成り立ち、2人の様子のおかしさを笑っているうちに、すべてを察して財布からお金を出す大久保さんの優しさに泣かされる。説明するセリフにたよらない(ナレーションもさりげなく、最小限しかありません)役者さんたちの演技力に、毎朝おどろかされます。脚本も、それを形にする演出も、光や小物だけで今がどの季節の何時頃なのかを見せるスタッフのみなさんもすばらしい。そして「わかりますよね?」と説明を省いているのは、見ている視聴者を信じてくれてる気がして、それもなんだかうれしいです。そう、このドラマの濃さは、視聴者を信じてくれているから、成り立ってるんですよね。

 視聴者を信じてくれているのは、省略されるシーンの多さでも感じます。前述の大久保さんは、とても厳しいけれど深い愛がある人だ、というのがじんわりと滲み出るような描かれ方をしていましたが、彼女が荒木荘を去るシーンは描かれませんでした。普通なら、厳しい上司が主人公にすべてを教えたのちに去っていくなんて、「泣ける」シーンがひとつできるはずですよね。でもそれをバッサリ切って、「3年経ちました」で終了。そんな安易な泣かせ方はしない、ここはいらない、なくてもわかるでしょ? とカットする潔さのあるドラマ、かっこいいなと思います。

 いらないところを省いて「濃いシーン」しかないドラマなので、そのままだと見ていて疲れちゃいそうなんですが、適度に「ゆるいシーン」もあって、そういう「抜け」を作ってくれているのもうまい。荒木荘玄関に現れる三毛猫さん、ぎゅーっと見入ったあとにあの子が歩いてるだけのシーンがあって、かわいいなーって気持ちがゆるむのがまたうれしいんですよね。

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