『スカーレット』が始まって1カ月! 濃いシーンの積み重ねから見えてきた“働き者”喜美子の成長
しかし、これだけ「濃い」のに、きみちゃんが物語の冒頭で窯に向かっていたような「陶芸家」となる様子は、今のところまるで描かれていません。信楽で拾った、室町時代のものらしい陶器のかけらを大事にとっているくらいで。今の濃度を保ったまま、陶芸家になるまで描いたら、最後にはそうとう濃くて深い物語になりそう。ちょっと想像がつきません。
この1カ月できみちゃんは「自分のことより人のために何かをする人」として描かれてきました。体の弱い母(富田靖子)の代わりに家事をして一家を支え、働いている荒木荘では住人それぞれに合わせてお世話をする。その働きぶりは、荒木荘の住人ちや子さん(水野美紀)が勤める新聞社に雑用係としてスカウトされるほど。人のために働く、働き者の主人公。それはもちろんいいことなはずなのですが、本当にそうかな? と思わせる描写になっているのも、秀逸だと思います。きみちゃんが働き者であるために、残された妹は姉と比べられる苦しみを抱えている。他人に優しく家族に厳しい、お金にだらしない父は、きみちゃんに頼り切っている。そんな、光のために生まれる影をきちんと描いているところも好きです。
きみちゃんが信楽にずっといたら、ひたすら働き続けてみんなを支える、利他的な生き方で一生を終えたかもしれない。思いがけず大阪に来たことで、家族以外の大人と出会い、「自分が好きなように生きていいんだよ」「仕事ではもらえるお金も大事だけど、夢も大事」などと新しい考え方を見せてもらえているのも、好きです。いろいろな話をしてくれるちや子さんも雄太郎さん(木本武宏)も、まだ若いきみちゃんに自分の考えを伝えるだけで「こうすべきだ」と決めつけないところも、すてきな大人だなと思います。ああ、私もあの人たちのいる荒木荘に住みたい。出されるごはんも、ほんとにおいしそうですよね。信楽の幼なじみ照子ちゃんも信作くん(林遣都)も大好きだけど、このまま大阪にいてほしい気持ちもあり、複雑です。出てくる人たち、全員が好き。……とにかくこの朝ドラ、「好き」なところしかないです。
大急ぎで家事を済ませ、コーヒーを淹れてわくわくしながらテレビの前に座る、午前8時。荒木荘には住めないけれど、せめておいしいコーヒーをきみちゃんたちとご一緒したい。朝の15分がこんなに楽しみなのは、久しぶりです。半年間よろしく、きみちゃん。
■渡辺裕子(わたなべひろこ)
TVドラマ好きイラストレーター。「月刊ローチケHMV」などで、コラム連載中。
ツイッター:https://twitter.com/satohi11
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/