『HiGH&LOW』は「もっとEXILEになれる」場所!? 山田裕貴、志尊淳、川村壱馬らの情熱と工夫

『ハイロー』は「EXILEになれる」場所?

 日本のどこかにあるSWORD地区(なぜSWORD地区と言うかを説明すると大変なので割愛)。このSWORD地区に存在する“漆黒の凶悪高校”こと鬼邪高校(おやこうこう)! そしてSWORD地区から電車移動可能な位置の戸亜留市(とあるし)にある“殺しの軍団”こと鳳仙学園! この2つの学校が色々あった末に正面対決! グレーゾーンはここにはない! ぶつかり合うSWAG & PRIDE!

 あえて細かい筋は語らないでおこう。「今まで『ハイロー』にも『クローズ』にも触れてないので……」という方も多いだろうが、気にしなくて大丈夫だ。正直、私も全てを把握はできていないが、この映画は大いに楽しめた。本作『HiGH&LOW THE WORST』(2019年)は、カッコいい男たちがカッコいいアクションを繰り広げる1本だ。こんなアクション映画は世界中のどこに行っても存在しないし、クライマックスなんてヤンキー映画の領域を超えている。『ザ・レイド』(2011年)に対するコペルニクス的転回でのアンサーだといえるだろう。百聞は一見に如かず。アクションの魅力については、私がどれだけ書いても伝わらないだろうから、とにかく観ていただくのが一番である。ありがたいことにアクション用の予告編まであるので、そちらを観ていただきたい。そんなわけで、ここからは私が今まで『HiGH&LOW』シリーズを追いかけて来た身として、本作を観て『HiGH&LOW』の何が好きなのかについて気がついた話をしたい。

 「もっとEXILEになった方がいい」……本作を観終わったあと、この言葉が浮かんだ。これは『HiGH&LOW』、ひいてはEXILEのメンバーが所属する事務所LDHと、LDHを築き上げたHIROさんという人物の根本にある思想だ。ちょっと意味が分からない、という人も多いだろう。しかし、この言葉は他ならぬEXILEのメンバーの言葉なのである。2014年、NHKでHIROさんがパフォーマーを勇退するまでを追ったドキュメンタリー番組が放送された。その中で、こんなやり取りがあったという。メンバーがそれぞれ今年の目標を語る中、NAOKIこと小林直己さんはこう言った。「HIROさんに言われた言葉で今年テーマにしようと思うのが『NAOKIはもっとEXILEになった方がいい』」……ちょっと意味が分からない。当時の私の率直な感想だ。しかし、これは「EXILEになる」という言葉が何を意味するかを知れば納得できるのだ。

 EXILEのメンバーの多くはパフォーマーだ。そしてパフォーマーというのは、どうしても加齢による肉体的な限界が来るもの。それに世界レベルで見れば、上手い人間はごまんといる。そんな中で活躍するには、ただ「ダンサー」でいるだけでは無理なのだ。だからEXILEのメンバーは俳優に挑戦したり、指導者になったり、あるいはアパレルブランド、コーヒーショップの経営など、セカンドキャリアのためにあれこれ工夫している。これが「EXILEになる」ということなのだ。世界には自分より凄いやつがいるし、どんな人間にも必ず限界が来る。だから将来のことを常に考え、具体的なビジョンを練り、自分の手でそれを実行していく行動力を持て……。こうした思想は『HiGH&LOW』の現場にも反映されている。

 『HiGH&LOW』の記事で目につくのが、役者のアドリブの多さだ。特に村山を演じた山田裕貴は「主役を食ってやる」という気持ちを持っていたことを公言し、カットできないタイミングでアドリブを入れていたとも言う。同じく鬼邪高の古屋役の鈴木貴之や、関役の一ノ瀬ワタル、轟役の前田公輝と協力して、鬼邪高を盛り上げていこうとあれこれ工夫したとも語っている。その結果として、彼らは劇中でも屈指の人気を得て、遂には本作の完成までこぎつけてしまった。そうした観点から考えると、山田裕貴らは『HiGH&LOW』という作品の中で「もっとEXILEになった方がいい」の思想を実現させたのだ。最初に与えられた役割に留まらず、周囲の俳優仲間たちと協力・工夫して、遂には『HiGH&LOW』に欠かせないキャラにまで成り上がった。さらに『HiGH&LOW』以外の場所でも俳優として着実に活動の範囲を広めている。まさに「もっとEXILEになった」のだ。

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