映画雑誌が日本映画界に果たしてきた役割とは? 展示会『映画雑誌の秘かな愉しみ』を訪ねて

『映画雑誌の秘かな愉しみ』展示会レポ

 現在、日本の映画雑誌の歴史をたどった展示会『映画雑誌の秘かな愉しみ』が国立映画アーカイブで開催中だ。

 映画に関するさまざまな資料を保管する国立映画アーカイブだが、映画の本をテーマにした2015年の『シネマブックの秘かな愉しみ』続いて、今回は映画雑誌に焦点を当てた。今年は、現存する日本初の映画雑誌『活動写真界』の創刊(1909年)から110年、現在も続く映画雑誌の草分け的存在『キネマ旬報』の創刊(1919年)から100年のちょうど節目の年で、改めて日本における映画雑誌の歴史を振り返る今回の企画の運びとなった。

いまは映画雑誌の大きな転換期

 日本で映画が普及し始めたのは明治末期のこと。先ほど触れた日本初の映画雑誌とされる『活動写真界』の創刊は1909年(明治42年)ということから、実は日本における映画史と、映画雑誌の歴史はほぼ並走してきた。密接に結びついてきたといってもいいだろう。

 ただ、今はインターネットの時代。社会と同じように映画を取り巻く環境も大きく様変わりしてきている。それは映画雑誌も例外ではない。映画サイトが大きく成長する一方で、気づけば映画雑誌が次々と消えゆく。もはや映画雑誌自体を手にしたことがない世代がいてもおかしくない。

 そういう意味で、もしかしたら、いまは映画雑誌の大きな転換期。時代の狭間で、いま改めて映画雑誌に注目することは必要なのかもしれない。今回の展示会を担当した国立映画アーカイブの濱田尚孝客員研究員は、こう語る。

「今回、展覧会の開催に至ったのは、やはり『キネマ旬報』の100周年は大きい。国立映画アーカイブが映画と出版物をテーマにした展示をするのは『シネマブックの秘かな愉しみ』に続いてのこと。そのときは、主に映画に関する本をピックアップしました。でも、映画に関する書物と同様に映画雑誌も長い歴史がある。それを証明するように、国立映画アーカイブが所蔵するものだけでも、展覧会を開くに十分な映画雑誌が資料として保存されています。なので、『キネマ旬報』100周年とともに映画雑誌について振り返るのもまた、映画の新たな愉しみを提供できるのではないかと考えました」

 映画雑誌の数だけ映画の見方がある

キネマ旬報 1919年7月11日の創刊号

 展示は、まず導入として『日本の映画雑誌の誕生』というブースで、現存する日本初の映画雑誌『活動写真界』を紹介。創刊者の写真や創刊号の表紙などを展示して、日本における映画雑誌の夜明けが見て取れる。

 そこを経ると、縦一直線の展示スペースで『キネマ旬報の100年』と題し、ここではキネマ旬報のこれまでの歩みを回顧。そこに呼応させるように『戦前の映画雑誌』『戦後の映画雑誌』『映画雑誌と映画史研究』という3つのブースが並び、その時代時代を彩った日本の映画雑誌を紹介し、その軌跡を一気にたどる。

 各エリアに、たとえばキネマ旬報の1919年7月11日の創刊号といった歴史的に貴重な映画雑誌が展示されている。「ぴあ」の1972年創刊8号及び2011年の合併最終号や「シティロード」の1975年の第1号、『ロードショー』の1972年の創刊号を見て、懐かしむ人も多いに違いない。

 そうした近年の映画雑誌になつかしさを覚える一方で、大いに驚かされるのが映画雑誌の創成期といっていい戦前の映画雑誌の数々にほかならない。松竹や日活など特定の映画会社に特化した「スタジオ雑誌」、たとえば阪東妻三郎だけをフューチャーした『阪妻画報』といった特定の映画スターに特化した「スターファン雑誌」、ほかにも業界誌、評論誌、左翼系雑誌、地方誌、映画教育誌など、多様な映画雑誌が存在していたことがわかる。それをみるだけで、映画がどれだけ人々の関心ごとだったのか、映画に多くの人が夢中になっていたかがうかがい知ることができる。濱田氏はこう語る。

「今回は『キネマ旬報』といった日本を代表する映画雑誌から、何号発行されたか定かでない地方で発行されていた小さな映画雑誌まで紹介することにしました。発行部数も歴史も読者数も違うこれらの雑誌を同等にとらえていいものかという意見もあると思います。ただ、今回に関してはできるだけ多くの日本の映画雑誌を紹介したいと思いました。それはこれだけ日本には映画雑誌が存在して、さまざまな角度から映画を観て楽しんでいたことを知ってほしかったからです。

 今回いろいろと調べる中でわかったことですけど、とりわけ戦前は、映画雑誌の数だけ映画の見方があるのかなと感じました。スタジオ雑誌やファン雑誌、小型映画の雑誌や教育映画の映画誌など、いろいろな読者がいて、それぞれの角度から映画を観ていた。戦後もアニメーションの立場で映画を観ている人もいれば、SFの見地からで映画を観ている人もいた。映画の関心の数だけ、映画雑誌があった。この多様さを知ってほしいと思いました。ですから、展示数は400点以上、展示スペースいっぱいを使って、できるだけ多くの映画雑誌を取り上げることにしました」

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